著者
大西 武雄
出版者
日本補完代替医療学会
雑誌
日本補完代替医療学会誌 (ISSN:13487922)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.1-7, 2007 (Released:2007-03-14)
参考文献数
24

細胞に温熱処理を施すと X 線の場合と同様に,生体内では細胞の運命を決定するキータンパク質であるがん抑制遺伝子産物 p53 を中心としたシグナルトランスダクションが誘導されることを我々が世界に先駆けて発見した.正常型 p53 遺伝子をもつがん細胞は変異型 p53 がん細胞に比べて温熱で Bax, Caspase-3 を経たアポトーシスが誘導されやすく,温熱に感受性であり,ハイパーサーミア治療に適している.しかし, 変異型 p53 がん細胞に対してもグリセロールや p53C 末端ペプチドを利用した分子シャペロン治療,アポトーシス促進・細胞分裂抑制を標的とした化学物質や siRNA を利用した標的がん治療,p53 遺伝子を利用した遺伝子治療などで有効な治療開発に成功してきており,臨床への応用が期待されている.現在のハイパーサーミア治療においても放射線療法,化学療法,外科療法との併用を行うことによって,より効率的ながん治療を工夫することもできる.いま,その治療増進のしくみを分子生物学的手法で科学している.
著者
古澤 之裕 藤原 美定 趙 慶利 田渕 圭章 高橋 昭久 大西 武雄 近藤 隆
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第53回大会
巻号頁・発行日
pp.118, 2010 (Released:2010-12-01)

目的:超音波は現代医療において診断のみでなく,がん治療にも用いられている.一定強度以上の超音波を細胞に照射することで,キャビテーションによる細胞死を引き起こすことが観察されてきた. 細胞死誘発の作用機所の一つとしてDNA損傷が考えられており,これまでチミン塩基損傷やDNAの一本鎖切断の生成が認められ,超音波照射後に発生するフリーラジカル,残存する過酸化水素の関与が報告されている.放射線や抗がん剤は,DNAを標的として細胞死を引き起こすことが知られており,損傷の種類,損傷誘発・修復機構等多数の報告がなされているが,超音波に関する知見は非常に限定的で依然不明な点が多い.本研究では,超音波により誘発されるDNA損傷と修復について検討を行った. 方法:ヒトリンパ腫細胞株に、周波数1 MHz、PRF 100 Hz、DF 10%の条件で超音波照射した。陽性対照としてX線照射した細胞を用いた.DNA損傷を中性コメット法,gammaH2AX特異的抗体を用いて検討した.また修復タンパクの核局在を免疫染色法にて検討した.ヒドロキシラジカルの産生をスピン捕捉法にて、細胞内活性酸素をフローサイトメトリーにて検討した。DNA損傷応答経路の阻害剤としてKu55933、Nu7026を適宜用いた. 結果:超音波が放射線と同様、照射強度・時間依存的にgammaH2AXを誘導し,コメットアッセイにおいてもDNA損傷が検出された。修復タンパクの核局在が同時に観察され,照射後時間経過による損傷の修復が確認された.キャビテーションを抑制すると超音波によるgammaH2AXは観察されず、細胞死も有意に抑制された。一方で細胞内外のROSの産生を抑制しても,gammaH2AXの有意な抑制は観察されなかった。超音波によるgammaH2AXはKu55933単独処理のみならず,Nu7026の単独処理によっても抑制された. 結論:超音波がキャビテーション作用によりDNA二本鎖切断を引き起こすことが明らかとなった.また,超音波によってもDNA損傷の修復シグナルの活性化が起こり,DNA-PKが重要な役割を担っていることが予想される.
著者
大西 武雄
出版者
奈良県立医科大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

p53 の機能を失ったがん細胞は、低線エネルギー付与(LET)放射線(X 線)によって誘発されるアポトーシス出現頻度が低く、放射線抵抗性を示すことを報告してきた。 今回、重粒子(高 LET)放射線は細胞死シグナルが誘導されやすいのは、生のシグナル系に関連する Akt-mTOR Akt、リン酸化 Akt、mTOR、リン酸化 mTOR, rpS6、リン酸化 rpS6、Survivin いずれのタンパク質量およびそれらの活性が効率的に抑制されることによることが明らかとなった。
著者
大西 武雄 小松 賢志 丹羽 太貫 内海 博司 渡邉 正己 法村 俊之
出版者
奈良県立医科大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2000

(1)センサー・緩照射は、NOを介したバイスタンダー効果により蓄積誘導された正常型p53の衰退を促進し、このp53の衰退促進はHdm2による分解促進であることが示唆された。(福井医大・松本)・低線量放射線照射により誘発されたDNA二重鎖切断の認識は、NBS1がはじめに損傷部位のヒストンを認識してヌクレアーゼを損傷部位にリクルートして、次にヌクレアーゼが損傷DNAに結合する二段階機構が明らかになった。(広大・小松)(2)情報伝達・あらかじめの低線量放射線の線量と、次の致死線量の被曝までのインターバルがマウス個体における適応応答に重要であることを明らかにした。(奈良医大・大西)・極低線量の放射線は細胞核由来の情報伝達経路は活性化せず細胞膜由来のERK1/2を経由する細胞内シグナル伝達系を活性化し、ヒストンH3のリン酸化を起こすことがわかった。(長崎大・渡辺)(3)適応を含む機能発現・放射線高感受性のマウス胸腺リンパ腫由来3SB細胞は、低線量照射後短時間の内にアポトーシスで死滅するが、線量率効果が見られなかった。(広大・鈴木)・低線量率照射での生存率上昇は、KU70欠損では観察されず、RAD54及びATM欠損細胞では観察され、低線量率照射回復は相同組換えではなく非相同組換えが主要な経路であることを明らかにした。(京大・内海)・p53依存性アポトーシスを介した組織修復機構がDNA修復機構と協調して働けば、低線量(率)放射線による少々の遺伝子損傷は効率的に排除され、その蓄積は起こらないことを明らかにした。(産業医大・法村)・低線量放射線により誘発される突然変異の質は、生殖腺細胞では欠失型変異の誘発が少なく、体細胞組織とは異なるDNA修復機構をもっていることが示唆された。(東北大・小野)・低線量放射線照射した精子のDNA損傷は遅延的に体細胞突然変異を誘発した。(京大・丹羽)
著者
大西 武雄
出版者
The Biophysical Society of Japan General Incorporated Association
雑誌
生物物理 (ISSN:05824052)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.11-19, 1986
被引用文献数
3

Most of the investigations of ultraviolet(UV)-radiation effects on organisms have been made with 254nm from a germicidal lamp. The specific DNA lesion, pyrimidine dimers, caused by UV irradiation have been shown to be toxic, mutagenic and carcinogenic. In contrast, knowledge of the biological effects of far UV(UV-C) radiation may not be relevant to the carcinogenic, mutagenic and lethal effects of UV in sunlight. Recently, since it has been indicated that the DNA lesions caused by mid-UV(280-320nm, UV-B) and nearUV(320-400nm, UV-A) is harmful to a wide variety of organisms, the studies of mid-UV and near-UV effects are considered to be important. The possible DNA damages caused by mid-UV and near-UV are summarized in the present review. In mid-UV range, both the pyrimidine dimers and other photoproducts such as 5-hydroxy-methyl cytosine may be responsible for the observed biological effects and they are repairable by excision repair systems or T4 endonuclease. Several DNA damages of near-UV are indicated to be DNA strand breaks dependent on pol<SUP>+</SUP> and nur<SUP>+</SUP> repair systems, DNA-protein cross-links and a small amount of pyrimidine dimers which are responsible to repair deficint mutants including human patients. In addition, other kinds of photodamages in tRNA carrying cytidine 13 and thiouridine 8 link than DNA damage are indicated to also interact to repair processes.