著者
衣笠 一茂
出版者
九州看護福祉大学
雑誌
九州看護福祉大学紀要 (ISSN:13447505)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.107-116, 2003-03

筆者はこれまでの作業において、現在の社会福祉の実践を規定している「原理principle」と、その論理的な基盤を構成している「価値value」についての批判的な検討を行ってきている。そこでは、既存の原理や価値に基づいた実践を構想するだけではもはや解決できない事態が社会福祉という事象の中に出現している点を指摘し、問題を解決しうる新たな社会福祉の理論体系が求められていること、そのためには体系の基礎となる実践の原理と価値を論理的に再構成する研究活動が不可欠であることを主張してきた。本論はかかる主張・関心を具体化するために、どのような研究方法論が有効であるのかを検討するための作業である。具体的には近年社会福祉研究において注目されている質的研究方法論に焦点を当て、その理論的背景を先行業績から検証するとともに、研究課題の達成に向けた質的研究方法論の可能性について考察することを目的とする。This article focuses on the theoretical background and the possibility of qualitative research approach, regarding of the study for the "principle" and "value" of social work practice. Inspired from the discussion of research methodology of social science recently, the purpose of this study is to induce the approach for social work research to find out the possibility which be able to solve the conflict between "theory" and "reality" of social work practice.
著者
衣笠 一茂
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.14-26, 2009

本論文は,ソーシャルワークの価値理論の構造的な問題を明らかにしようとするものである.従来からソーシャルワークの価値である「個人の尊厳の尊重と保障」を具象化するために「自己決定の原理」が重要視されてきたが,近年はこの原理を実現するうえでの倫理的ジレンマも多くみられる.本論文では,こうした実践のジレンマを方法や技術といった機能論的な理解ではなく,ソーシャルワークの価値理論が構造的に内包している問題に端を発するものであると考え,その問題構造を論証する・具体的には,ソーシャルワークの価値についての議論が多くみられる1990年代以降のアメリカとイギリスにおける先行研究をレビューし,そこから整理された価値の理論構造をカント哲学を中心とする近代社会思想に準拠して分析することにより,特に自己決定の原理が有している構造的問題を解明し,実践に寄与しうる新たなソーシャルワークの価値理論を,ソーシャルワーク実践を帰納的な方法で科学的に分析することにより構築する必要性を提起する.