著者
西 勇樹 大住 倫弘 信迫 悟志 森岡 周
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0391, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】慢性疼痛患者では交感神経活動の変調が生じやすいことが報告されている。さらに,交感神経活動の変調が生じやすい者は内受容感覚の感受性(以下,IS)が高いことが健常成人を対象にした研究で明らかにされている(Pollatos 2012)。我々も健常成人におけるISと交感神経変動の関係性を追試実験し,先行研究と同様にISが高い者は交感神経変動が生じやすいことを確認した(第51回日本理学療法学術大会)。本研究では,研究対象を慢性疼痛患者とし,慢性疼痛患者における交感神経変動の時間的変化とISの関係性を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は介護老人保健施設利用中の高齢者35名(男性7名,女性28名,平均年齢85.4±6.6歳)である。全被験者を疼痛罹患期間が6ヵ月以上の者を慢性疼痛群(n=21),それ以外の者をコントロール群(n=14)に分けた。ISを定量化するための心拍追跡課題では,一定時間(30,35,40,45s)手がかりなしで自分の心拍数を数える課題を各時間条件1試行ずつ実施した。痛み刺激は圧痛計(デジタルフォースゲージ)を用い,圧痛閾値までの刺激を与え,安静時及び圧痛時の自律神経活動を記録し,ローレンツプロット解析を行い(Toichi 1997),交感神経系指標(以下,CSI)を算出し,安静時・圧痛刺激時・圧痛刺激から1分後のCSI値を記録した。各時間条件におけるCSIを2群間で比較することに加え,各群におけるCSIを各時間条件間で比較した。また,各群におけるCSIの安静時と疼痛刺激時の差分とISとの相関関係を分析した。なお,有意水準は5%未満とした。【結果】2群間比較の結果では,CSI(安静時,圧痛刺激時,一定時間経過後)に群間差を認めなかった。また,コントロール群におけるCSIの時間的変化において,安静時と圧痛刺激時に有意差を認めたが(p<.01),1分後のCSI値には有意差を認めなかった(p=.07)。一方,慢性疼痛群では安静時と比べ,圧痛刺激時のみならず1分後のCSI値にも有意差を認めた(p<.01)。安静時と疼痛刺激時の差分とISとの相関分析では,コントロール群においては有意な相関を認めなかったが(r=.23,p=.42),慢性疼痛群では負の相関が認められた(r=-.46 p<.05)。【結論】慢性疼痛患者において,疼痛刺激による交感神経反応が大きく,その反応が一定時間経過後まで持続することが明らかとなった。さらに,疼痛刺激によって交感神経反応が生じやすい者ほどISが低いことが明らかとなった。これは健常成人における相関関係とは解離する結果であり,疼痛の慢性化に伴ったISの変容が,交感神経反応を生じやすくさせる要因となると示唆された。つまり,内受容感覚は自身の自律神経反応を的確に捉えて,それを制御するプロセスで重要な感覚であることが示唆された。
著者
信迫 悟志 坂井 理美 辻本 多恵子 首藤 隆志 西 勇樹 浅野 大喜 古川 恵美 大住 倫弘 嶋田 総太郎 森岡 周 中井 昭夫
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】発達性協調運動障害(Developmental Coordination Disorder:DCD)は,注意欠如多動性障害(Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder:ADHD)の約50%に併存し(McLeod, 2016),自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder:ASD)にも合併することが報告されている(Sumner, 2016)。一方,DCDの病態として,内部モデル障害(Adams, 2014)やmirror neuron systemの機能不全(Reynolds, 2015)が示唆されているが,それらを示す直接的な証拠は乏しい。そこで本研究では,視覚フィードバック遅延検出課題(Shimada, 2010)を用いた内部モデルの定量的評価と運動観察干渉課題(Kilner, 2003)を用いた自動模倣機能の定量的評価を横断的に実施し,DCDに関わる因子を分析した。</p><p></p><p></p><p>【方法】対象は公立保育所・小・中学校で募集された神経筋障害のない4歳から15歳までの64名(男児52名,平均年齢±標準偏差:9.7歳±2.7)であった。測定項目として,Movement-ABC2(M-ABC2)のManual dexterity,視覚フィードバック遅延検出課題,運動観察干渉課題,バールソン児童用抑うつ性尺度(DSRS-C)を実施し,保護者に対するアンケート調査として,Social Communication Questionnaire(SCQ),ADHD-Rating Scale-IV(ADHD-RS-IV),DCD Questionaire(DCDQ)を実施した。MATLAB R2014b(MathWorks)を用いて,内部モデルにおける多感覚統合機能の定量的指標として,視覚フィードバック遅延検出課題の結果から遅延検出閾値(delay detection threshold:DDT)と遅延検出確率曲線の勾配を算出し,自動模倣機能の定量的指標として,運動観察干渉課題の結果から干渉効果(Interference Effect:IE)を算出した。M-ABC2の結果より,16 percentile未満をDCD群(26名),以上を定型発達(Typical Development:TD)群(38名)に分類し,統計学的に各測定項目での群間比較,相関分析,重回帰分析を実施した。全ての統計学的検討は,SPSS Statistics 24(IBM)を用いて実施し,有意水準は5%とした。</p><p></p><p></p><p>【結果】DCD群とTD群の比較において,年齢(p=0.418),性別(p=0.061),利き手(p=0.511),IE(p=0.637)に有意差は認めなかった。一方で,DCD群ではTD群と比較して,有意にSCQ(p=0.004),ADHD-RS-IV(p=0.001),DSRS-C(p=0.018)が高く,DCDQが低く(p=0.006),DDTの延長(p=0.000)と勾配の低下(p=0.003)を認めた。またM-ABC2のpercentileとSCQ(r=-0.361,p=0.007),ADHD-RS-IV(r=-0.364,p=0.006),DCDQ(r=0.415,p=0.002),DDT(r=-0.614,p=0.000),勾配(r=0.403,p=0.001)との間には,それぞれ有意な相関関係を認めた。そこで,percentileを従属変数,これらの変数を独立変数とした重回帰分析(強制投入法)を実施した結果,DDTが最も重要な独立変数であった(β=-0.491,p=0.002)。</p><p></p><p></p><p>【結論】本研究では,内部モデルにおける運動の予測情報(運動の意図,遠心性コピー)も含めた多感覚統合機能不全(DDTの延長)が,DCDに最も重要な因子の一つであることが示された。</p>
著者
西 勇樹 伴 雅雄 及川 輝樹 山﨑 誠子
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

はじめに 蔵王火山は、東北日本火山フロントに位置する活火山で、2013年頃から噴火の前兆的現象が多数観測されている。蔵王火山の最新期は約3.5万年前の馬の背カルデラの形成に始まり、約2千年前に最新の山体である五色岳が活動を開始した。我々は、五色岳形成開始前後の噴出物を対象として、地質学的・岩石学的研究を進め、その結果、噴出物の地質ユニットは、五色岳形成に先行する溶岩ユニット(振子滝溶岩、五色岳南方溶岩及び火砕岩類)と形成開始後の火砕岩ユニット(五色岳南部火砕岩類、五色岳東部火砕岩類)に細分されること、全ての岩石は苦鉄質・珪長質マグマの混合によって形成されたこと、一方で、両端成分マグマの特徴、マグマ溜まりの構造、および滞留時間1年未満と5年以上を示す珪長質マグマ由来の直方輝石の割合が、溶岩ユニットと火砕岩ユニットでやや異なっていることが明らかになった。 上記の火砕岩ユニットの両火砕岩類は、後者が前者を不整合に覆っており、形成時期がやや異なる可能性がある。また、五色岳南部火砕岩類には計3本の火砕岩脈が認められる。今回は、五色岳南部火砕岩類で見られる火砕岩脈の特徴と形成過程を明らかにすると共に、五色岳南部火砕岩類の岩石学的特徴を、前後の地質ユニット(溶岩ユニット、五色岳東部火砕岩類)と比較し、マグマ溜まりの時間変遷の検討をより詳細に行った。五色岳南部火砕岩類、特に火砕岩脈について 五色岳南部火砕岩類は五色岳の南東部に分布する。噴出物は主に成層構造の発達した火砕サージ堆積物からなる。全層厚は約12mである。火砕サージ堆積物を切る計3本の火砕岩脈(以下、火砕岩脈を順に1~3と称す)が認められる。その最上部は浸食されている。火砕岩脈1~3の高さは約12m、7m、7m、幅(最下部)は4m、2m、8m、幅(最上部)は16m、5m、8m、走向はN50°E、N70°E、N15°Eである。何れもほぼ垂直方向に貫入しており、火砕岩脈1、2は下部から上部に向かって幅が広がる形状を成す。火砕岩脈3の幅はほぼ一定である。火砕岩脈は褐色~青灰色の火山灰支持の凝灰角礫岩からなる。本質岩片は細かい冷却クラックを持つ火山弾とそれらが破砕されたと考えられる径5cm~10cm程度の火山礫、径10cm程度の少量のスコリアからなる。加えて、径5~10cm程度の類質岩片を少量含む。岩片の多くが冷却クラックをもつ本質物であり、破砕されたものも多いことからマグマ水蒸気爆発によるものと推定される。なお、火砕サージ堆積物と岩脈の境界は明瞭であり、境界付近の火砕サージ堆積物は赤褐色に酸化している。火砕岩脈1を代表として、内部構造について詳細に検討した。その結果、弱い成層構造が認められ、多くの火山岩塊は概ね水平方向に伸長しており、少なくとも一部はフォールバックした可能性が高い。また、火山岩塊の含有割合に不均一性が認められる。特に、岩脈の両端から10~20cmにおいては大きな火山岩塊が認められない。これは岩脈の境界付近で効率的に破砕が進行したためと思われる。岩石学的特徴の比較検討 五色岳南部火砕岩類(火砕岩脈の本質岩片も含む)の岩石学的特徴について、前後の地質ユニットと比較検討を行った。いずれの岩石も単斜輝石直方輝石安山岩からなり、全岩化学組成は、概ね一連の組成トレンドに乗る。しかし、溶岩ユニット、五色岳南部火砕岩類、五色岳東部火砕岩類の組成変化トレンドは、TiO2-SiO2図上で、この順に高TiO2量側にシフトし、Cr-SiO2図上では低Cr量側にシフトしている。これらの特徴は、溶岩ユニットから五色岳東部火砕岩類にかけて、苦鉄質端成分マグマの組成が変化したことを示唆する。また、どの地質ユニットでも直方輝石斑晶のリム(Mg# = 69)から内側~100μmの部分でなだらかな逆累帯構造をもつreverse-zoned タイプ と、リムから内側~50μmの部分でMg-rich zone(Mg# = ~75)を持つMg-rich-rim タイプが認められるが、溶岩ユニットではreverse-zoned タイプが多く、五色岳東部火砕岩類ではMg-rich-rim タイプが多いのに対して、五色岳南部火砕岩類ではその両方がある程度認められる。また、直方輝石の滞留時間について、溶岩ユニット中の多くのものは5年以上で、五色岳東部火砕岩類の多くのものは1年未満のであるのに対して、五色岳南部火砕岩類はその両方が認められる。 以上の検討結果から、五色岳南部火砕岩類は溶岩ユニットと五色岳東部火砕岩類の中間的な岩石学的特徴を持つことが明らかとなった。reverse-zonedタイプの多い溶岩ユニットでは混合マグマは発達し、Mg-rich-rim タイプの多い五色岳東部火砕岩類では混合マグマは未発達であったと考えられるため、その両方のタイプをある程度含む五色岳南部火砕岩類は上下の地質ユニットと比べて、中間的な混合マグマの発達度合いであったと考えられる。すなわち、五色岳南部火砕岩類は、溶岩ユニットから五色岳東部火砕岩類に移る転換時期であったと考えられる。