著者
梶 龍兒 坂本 崇 和泉 唯信 西村 公孝
出版者
徳島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

筋萎縮性側索硬化症(ALS)は発病後数年以内に呼吸筋の麻痺を来たし、人工呼吸器につながったままの生活や死をまねく神経難病である。その治療にはriluzoleが用いられているがその効果はわずかであり、限られている。ALSの病因として近年グルタミン酸の神経毒性が注目されている。グルタミン酸は脊髄での上位および下位運動ニューロン間の神経伝達物質でありその毒性により興奮性神経細胞死がおこると考えられている。我々は超大量のビタミンB12誘導体であるメチルコバラミンがこのグルタミン酸毒性を抑制することから本症の治療薬として用いられないかを検討した。本研究の結果、従来から継続しているALS患者のさらに長期の経過を分析することができた(Izumi et al. submitted)。その結果は、少数例の観察ながら、無作為割付の対照試験で統計的に有意の生命予後の改善が見られるものであり、現在日本の企業により欧州において大規模な臨床試験が準備中である。ALSのモデル動物であるSOD1-transgenic mouseでは継代飼育中に発症時期が遅延したり不均一になったため十分な検討ができなかった。近年東北大学で開発されたSOD1-transgenic ratに切り替えて検討中であるが3月末現在、発症数が少なくさらに時間を用することになった。結果が得られ次第、英文誌に投稿する予定である。一方、経頭蓋磁気刺激法を用いたALS患者での研究では、脊髄のグルタミン酸放出による興奮性シナプス後電位は、病初期において振幅が増大していることが示された(Kaji, Kohara, in press)。従来ALSの病態を調べる方法としては、死後の病理所見が中心であったが、本法は疾患の病期の伸展を非侵襲的に患者で検討する方法としてこれからさらに臨床応用が発展することが期待される。