著者
宋 苑瑞 西浦 忠輝 小口 千明
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

沖縄の首里城公園内にある園比屋武御嶽石門は「琉球王国のグスクおよび関連遺産群」の一カ所として2000年に世界遺産に登録された.石門とその奥の森を園比屋武御嶽といい,琉球王国の国王が外出するときに安全を祈願する礼拝所として使われてきた.1519年に琉球石灰岩で建てられ,1933年には旧国宝に指定されたが沖縄戦で大破され,1957年に復元された後に解体修理し1986年に完成し,1972年国指定建造物になった.解体修理時には古い屋根石を使用したが,この際にクリーニングや撥水性シリコーン樹脂の含浸や表面の穴埋めを行った.現在は図1でも確認できるように,石門全体の色は黒っぽくなり,屋根(右側が古屋根材を使用したところ)の部分の穴埋め箇所とオリジナル石材とは色の差も目立つようになっている.穴埋めとシリコーン樹脂塗布から30年後の状況を色彩計を用いて定量的に把握し,今後の修理処置に役立てられることを本研究の目的とする. 修復された屋根の表面の色や石門の全体的な色の把握するために,石門の表面の51か所で分光測色計(コニカミノルタ社製,CM-700d,測定径Φ8mm)を用いて定量的測定を行った.この測定器は,測定時間はわずか1秒程度で,簡便に携帯できる特徴があり,多様な分野で使用されている.石門の正面から見た際に黒色化した部分の割合をPhotoshopを用いて求めた.石門の表面温度を測定擦るため,FLIR社製の熱カメラを用いて,表面の温度分布を把握した.一年中の気温と湿度の変化を把握するために,那覇市市民文化部文化財課の許可を得て,ボタン型温湿度測定器(ハイグロクロン)を石門の南側の左上の方に設置し,観測を行った. 分光測色計による測定の結果,修復当時は石灰岩の色が明るく,屋根部分に修復材とほぼ同じ色だったが,30年後は変色速度や状況が異なり,修復材の方は灰色に,本来の石材はより黒色になっている箇所が多かったことが分かった.園比屋武御嶽石門の屋根の下で観測された年間平均気温は24℃,平均湿度は81.5%で,高温多湿な亜熱帯気候の特徴が見られた.冬季の平均気温も22.1℃で,湿度も80%に至り,最低気温も8.5℃だった.そのため,植生の成長がとても速く,建物の表面の色に影響を与えた可能性がある.
著者
吹田 浩 伊藤 淳志 西形 達明 西浦 忠輝 沢田 正昭 仲 政明 渡邊 智山 安室 喜弘
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

古代エジプトの遺跡で典型的な石造文化財であるマスタバ墓の保存状況、劣化の現状、エジプトの管理当局の保全対策をサッカラのイドゥートを事例にエジプト学、建築工学、地盤工学、保存科学、文化財修復技術の観点から、総合的に研究を行い、問題点を整理した。その際、3次元の精密な記録を作成し、情報リテラシーの観点から使いやすいデータベースの技術を開発した。エジプト革命(2011年1月末)後の政情不安のために、現地での調査ができずに、研究が遅れざるを得なかったが、代替のデータを使用するなど、可能な限り当初の目的達成をはかり、データベースの開発を達成した。今後は、各種のデータを入力し、活用していくことになる。
著者
吹田 浩 西浦 忠輝 米田 文孝
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

2003年8月にエジプト国古物最高評議会から、サッカラにあるイドゥートのマスタバ墓の地下埋葬室壁画を修復する正式な許可を得て、同年11月に第1次調査、2004年4〜5月に第2次調査をおこなった。調査の最大の意義は、イドゥートの壁画がギザ・サッカラ地域での初めての修復の試みであることにある。壁画の状態は予想をこえて悪く、1935年の報告書に比較して相当に剥落が進行していることを確認した。注意すべきは、クラックの存在と浸水による損傷である。天井・壁・床に多くのクラックがあり、南面の壁のクラックは、この70年の間に成長していることは明らかである。北面にはかつての浸水のあとが明瞭であり、東のシャフト入り口上部も浸水による損傷と考えられるあとが見られる。乾燥地帯にあるとはいえ、何回かの豪雨があり、浸水したものと思われる。正確な記録を作成するために、カメラとビデオによって壁画を撮影した。多くの壁画片が床面に落ちていたために、これらを回収した。これらの壁画片は、修復の際に本来の位置に戻すことがある程度可能である。壁画の劣化の原因を探るべく、化学分析(X線回折、岩石分析学、DTA分析、赤外線分析、断面分析法など)をおこない、埋葬室内と外部に温湿度計を設置している。調査の範囲では、温度と湿度とも極めて安定している。壁画と母岩の状態から、壁画は母岩からはぎ取る必要があると考えている。その際、埋葬室が閉鎖空間であることと、さらに日本独自の技術の有効性を確認するために、フノリと和紙(あるいは、レーヨン紙)による引き剥がし方法を検討している。2年間の調査によって、エジプトの遺跡管理当局と信頼関係を築くことができた。また、エジプト側の研究協力者が遺跡管理当局の修復部門のトップとなったことから、我々の調査が今後開発する修復技術は、エジプト側にすみやかに普及することが期待される。