- 著者
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宋 苑瑞
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集 2017年度日本地理学会秋季学術大会
- 巻号頁・発行日
- pp.100169, 2017 (Released:2017-10-26)
近年韓国で最も懸念されている環境問題は大気汚染である.毎年春先に中国大陸からの黄砂の影響で,視界が悪くなることはしばしばあったが,現在は季節に関係なく視界が悪くなる日が増えている.大気汚染により,外出を控え,洗濯物を外で干せなくなるなど,日常の生活が制限されるようになり,PM2.5などの大気汚染物質が注目されるようになった. 韓国では1960年代からの高度成長期を経て工業化が進んできた.一部の製造業の工場は日本と同様に海外へ移転したが,製鉄・精油など大規模の重化学工業は,現在でも国内の主要産業の一つである.大気汚染の主要な発生源は産業施設から排出される汚染物質と車からの排気ガスである.このような状況において,韓国の国立環境科学院は1999年から120余の関連企業から約300項目の資料を収集し,大気汚染物質の排出量を算定している.2011年から新しい項目としてPM2.5の測定を開始した.現在韓国内のPM2.5を含む大気汚染物質の測定所は322箇所あり(首都圏には143箇所),毎時間のデータをオンラインで配信している.韓国の主要大気汚染物質の排出量の推移を図1に示す.汚染物質のうち最も高い割合を占めているのは窒素化合物(NOX)で,近年再び増加傾向にある.その排出源のうちの道路移動汚染源は前年度比約8%増加,非道路移動汚染源(建設装備及び航空運航便数)は前年度比約18%増加した.次に多いのは揮発性有機化合物(VOC)であるが,エネルギー産業での燃焼量が前年度比約10%減少し,生産工程からの排出が約4%増加したことから,全体では前年度比約1%減少した. 韓国における車の登録台数は2017年6月現在約2200万台で,近年も毎年3%前後で増加している(韓国国土交通部,2017).韓国のディーゼル車の割合は全体の42%を超えている.特に,近年は燃費の割安さからディーゼル車が人気を集め,ディーゼル車が急増していて,現在登録されているディーゼル車の54%が自家用車である.ディーゼル車はガソリン車より数倍も多く窒素化合物(NOX)を排出することから,世界的には排気基準を厳しく制限され,出荷台数や占有率も減少傾向にあるが,それとは異なる状況である.2014年に排出されたNOXの排出量113.6万トンのうち,最も高い割合を占める排出源は道路移動汚染源で,36.1万トンが排出された. 韓国の大気汚染物質について排出地域別に見ると,首都圏と発電所,製鐵製鋼,燃焼施設など大型施設が位置する忠清南道,全羅南道,慶尚北道の一部地域で汚染物質の排出量が大きかった. 2014年の韓国のPM2.5の排出量は6.3万トンで,主な排出源は製造業における燃焼と非道路移動汚染源で,年間排出量はそれぞれ3万トンと1.4万トンに至る.韓国のPM2.5の大気環境基準は1日平均で50 μg/m3, 年平均で25 μg/m3で,日本(1日平均35 μg/m3と,年平均15 μg/m3)と中国(1日平均75 μg/m3,年平均35 μg/m3)の中間値を取っている.しかし,この基準値はWHOの指針基準やアメリカあの年平均基準値より2倍以上高い基準値であり,大気汚染を減らすための今後のさらなる努力と改善が必要である. 参考文献 韓国国土交通部(2017),車の登録資料統計. 韓国国立環境科学院(2015),2013年全国の大気汚染物質の排出量,133p.