著者
古戎 道典 小山 則行 西田 舞香 村本 賢三
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.156, no.2, pp.114-119, 2021 (Released:2021-03-01)
参考文献数
28
被引用文献数
1

近年,不眠症治療薬として,従来のベンゾジアゼピン系薬剤に加え,オレキシン受容体拮抗薬が上市しており,不眠症の薬物治療は大きく変革しつつある.オレキシンは視床下部外側野で産生される神経ペプチドであり,睡眠・覚醒状態を制御するキーメディエーターとしての生理的役割が示唆されている.オレキシン受容体拮抗薬は,オレキシンシグナルを介して睡眠覚醒サイクルに特異的に作用し,生理的な睡眠を誘導すると考えられている.レンボレキサントは2つのオレキシン受容体,オレキシン1受容体(OX1R)とオレキシン2受容体(OX2R)の両方に作用するデュアルアンタゴニストであり,OX2Rに対してより強い阻害作用を有する.オレキシン受容体に素早く結合・解離することから,レンボレキサントの薬理作用には血中濃度の薬物動態が強く反映されると考えられる.ラットモデルでは,レンボレキサントがレム睡眠とノンレム睡眠を同様に促進し,睡眠構造を変化させずに睡眠誘導効果を示すことが確認された.不眠症患者を対象とした第Ⅲ相試験では,レンボレキサントが入眠障害および中途覚醒を有意に改善した.本薬による副作用としては傾眠の頻度が最も高く,用量依存的な発現が認められたものの,忍容性は概ね良好であった.また,翌朝の覚醒後(投与8~9時間後)の体のふらつきや運転技能に対する影響はプラセボ群と統計学的に差がなく,翌朝への持ち越しリスクが低いことが示唆された.レンボレキサントは,併存疾患を伴う不眠症患者でも有効性や安全性に大きな違いは認められず,こうした患者に対しても有用であることが示唆される.以上の結果を受け,レンボレキサントは2020年1月に不眠症の適応で承認を取得した.不眠症患者に対する新たな治療の選択肢として期待される.
著者
飯嶋 寿江 加瀬 正人 相良 匡昭 加藤 嘉奈子 清水 昌紀 西田 舞 友常 孝則 田中 精一 青木 千枝 城島 輝雄 鈴木 國弘 黒田 久元 麻生 好正
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.9, pp.707-714, 2015-09-30 (Released:2015-09-30)
参考文献数
30
被引用文献数
1

症例は70歳,女性.1型糖尿病,うつ病にて加療中,自殺企図のためインスリンデグルデク300単位,インスリンリスプロ300単位を皮下注射し,注射3時間後に意識障害で家族に発見され,当院救急外来に搬送となり,入院となる.簡易血糖測定では,測定感度以下(30 mg/dl未満)を示し,血清インスリン値は2972.1 μU/mlと極めて高値を示した.直ちに,ブドウ糖の静脈投与を開始した.低血糖は大量注射30時間後を最後に認めなかったものの,大量投与36時間後の血清インスリン値は1327.0 μU/mlと依然として高く,低血糖の予防のため,第6病日まで経静脈的ブドウ糖投与を継続した.本症例の経過より,インスリンデグルデクの大量投与症例では他のインスリン製剤以上に長時間にわたる注意深い観察と対応が必要であると思われた.インスリンデグルデク大量投与による遷延性低血糖の症例は極めて稀であり,文献的考察を加え報告する.