- 著者
-
許 夏玲
- 出版者
- 東京学芸大学
- 雑誌
- 若手研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 2003
本研究では、初級修了レベル(6名)および中級レベル(2名)の中国人日本語学習者(計8名、20〜30代)を調査対象とし、日本語の会話において学習者たちが日本人母語話者(4名、20代)に助言(アドバイス)する状況におちいる際、どのような表現が用いられるのか、またこれらの表現が中国語母語による干渉があるのかを考察し、助言(アドバイス)の場における日中言語行動を分析した。会話の時間は約20分、テーマは「来日後、生活や勉強や人間関係に困ったことや問題点について」および「中国や日本での旅行について」とした。分析の結果、初対面および面識のある日中両グループの間では、事実提示による助言の方法(中国人学習者59%)がもっと多く用いられている。例として以下のようものが挙げられる。(1)「ぜひ ぺきん ぺきんも いろいろ ばんりのちょうじょうも こせきが あります」(中国人学習者)(2)「そりゃ ひとことみたい {両者笑い} でも いま いろんなサポートがあるから そういうの どんどん せっきょくてきに さんかさせれば ぜったいりょうほうのぶんかを たかいれべるで(そうですか) かくほできる」(日本人母語話者、収集したデータには2例しかなかった)事実提示による助言は、ネガティブポライトネスの観点から言うと、話者がそれほど親しくない間柄の相手に、直接自分の意見を助言(アドバイス)として相手に提示し、相手の行動を指示することを避け、むしろ相手にとって役に立つと思われる関連情報を提示することにより、相手に思考や判断の余地を与えることができると考えられる。なお、事実提示の表現は「〜ほうがいい」「〜てください」とともに現れる傾向がある。この場合、事実提示は一種の補足説明(理由)として用いられると考える。一方、収集した会話データでは、中国人学習者が「〜ほうがいい」(13%)「〜てください」(13%)「〜ましょう」(9%)を助言(アドバイス)の表現として用いた。副詞「ぜひ」が「〜ましょう」とともに用いられることもある。これらの表現はポジティブポライトネスの観点から言うと、会話が進み次第、話者が相手との心理的な距離が狭められ、相手に積極的に自分の意見を助言(アドバイス)するときに用いられると考えられる。日本語教科書には、「〜てください」および「〜ましょう」は助言の表現として掲載されていない。