- 著者
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谷澤 俊弘
- 出版者
- 一般社団法人情報処理学会
- 雑誌
- 情報処理 (ISSN:04478053)
- 巻号頁・発行日
- vol.49, no.3, pp.282-289, 2008-03-15
- 参考文献数
- 7
- 被引用文献数
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2
2003年8月14日,アメリカ北東部で大規模な停電が発生し,ニューヨーク,クリーブランド,デトロイト,トロント,オタワなどの大都市を含む広範囲の約5,000万人が影響を受けた.この停電による損失金額は60億ドル(約7,000億円)と言われている.アメリカ北東部という現代文明の最先端地域の電力供給網がこのような脆弱性を持っていることに驚かれた読者もおられるかもしれない.この脆弱性は,この地域の電力供給網がスケール・フリー・ネットワーク構造を持つことに起因している.スケール・フリー・ネットワークはその構成要素についての個々の不慮の故障に対しては非常に頑強であり,その連結性を保持できる一方,ネットワーク内の重点個所に集中した攻撃にはきわめて弱く,わずか数%の重要個所を取り除いただけで,全体がバラバラになってしまうのである.実は,インターネットもスケール・フリー・ネットワークであり,同様の脆弱性を持っている.では,構成要素個々の故障と重点個所への集中攻撃の両方に対して強いネットワークを作り上げることはできるのだろうか.本稿では,統計物理学の手法を用いた理論解析から明らかになった,故障と攻撃の両方に強いネットワーク設計の指針について概説する.