著者
和田 千鶴 豊島 至
出版者
秋田大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

スギヒラタケ関連脳症は,スギヒラタケ摂食後意識障害,痙攣をきたし,脳画像所見で両側基底核病変を認める致死的な疾患である。これらは中国で流行したサトウキビカビ脳症にきわめて類似している。われわれはサトウキビカビ脳症の原因物質である3-ニトロプロピオン酸(3-NPA)のスギヒラタケ関連脳症への関与を検討した。その結果、患者血清,髄液,スギヒラタケに3-NPAの有意な高値を認めず,また,付着真菌のいずれも3-NPAを産生しなかった。両側基底核病変を起こす可能性のある毒素は3-NPAの他にも数多く存在し,いずれもミトコンドリア毒素であり,基底核の酸化ストレス脆弱性に関連すると考えられている。ヒトの中毒例がない物質でも,実験動物で両側基底核病変が証明されており,今後,原因物質として検討に値する。一方,スギヒラタケは従来無毒のキノコであり、スギヒラタケ関連脳症はサトウキビカビ脳症と比べると,摂食から神経症状出現までの潜伏期が日単位と長く,不定である。摂食したスギヒラタケの量と重症度が相関しない。サトウキビカビ脳症と異なり,発熱,髄液細胞数増多を伴う炎症反応が強い症例も多いなど従来の中毒疾患として説明できない事項が多い。また、脳症患者は腎不全を高率に合併した。腎不全には種々の代謝異常、易感染性・免疫異常が現れるとされている。これらの異常が脳症発症に関与した可能性が考えられる。しかし、スギヒラタケを摂食した腎不全患者のうち、脳症発症者は2〜3%に過ぎないという事実から、脳症発症者個体としての免疫応答の異常や毒性物質代謝酵素活性低下についての検討も必要と考える。