著者
藤本 淳平 中村 達也 豊田 隆茂 岸 さおり 稲田 穣 上石 晶子
出版者
日本言語聴覚士協会
雑誌
言語聴覚研究 (ISSN:13495828)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.95-103, 2019-06-15

重症心身障害児者における下顎の安定性が咽頭期嚥下に与える影響を探ることを目的に,口腔期の舌運動(前後・上下)の違いによる嚥下時の下顎運動および舌骨運動の差異を比較した.対象は重症心身障害児者10名とし,口腔期の舌運動が前後動である5名(男性4名,女性1名:15.8±20.6歳)を前後動群,上下動である5名(男性2名,女性3名:27.2±16.2歳)を上下動群と割付けた.対象者のペースト食品3〜5mlの嚥下を嚥下造影検査で撮影し,下顎と舌骨について運動方向(垂直方向,水平方向)ごとの移動距離および移動時間を計測した.結果,下顎運動では,下制および後退距離が上下動群に比べて前後動群で長かった(p=.009).舌骨運動では,最大挙上位(p=.007)および最大前進位停滞時間(p=.011)が上下動群に比べて前後動群で短かった. これより,前後動群は嚥下時に下顎の固定が不十分なため,舌骨の最大挙上位および最大前進位における停滞時間が短かったと考えられた.
著者
中村 達也 藤本 淳平 鹿島 典子 豊田 隆茂 鮎澤 浩一 小沢 浩
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.185-192, 2018-12-31 (Released:2019-04-30)
参考文献数
29

【目的】重症心身障害児者の舌骨は,嚥下造影検査(VF)で鮮明に投影されないことも多く,咽頭期嚥下の特徴が不明確である.そこで,本研究では,重症心身障害児者の咽頭期嚥下の特徴を明らかにするために,舌根部と咽頭後壁の接触時の食塊先端部の位置を健常成人と比較した.【対象と方法】健常成人19名(健常群)と重症心身障害児者41名(障害群)について,ペースト食品3~5 mLの自由嚥下時のVFを撮影し,30フレーム /秒で動画記録した.VF動画をフレームごとに解析し,舌骨挙上開始時と舌根部と咽頭後壁の接触時の特定,舌骨挙上開始時の特定が可能だった者の舌骨挙上開始時から舌根部と咽頭後壁の接触時までの時間間隔の測定,誤嚥の有無の評価をした.さらに,舌骨挙上開始時および舌根部と咽頭後壁の接触時の食塊先端部の位置を,喉頭蓋谷を基準に到達前・到達・通過後の3段階で評定した.統計解析は,一元配置分散分析およびFisher’s exact testを用いて比較した.【結果および考察】舌骨挙上開始時から舌根部と咽頭後壁の接触時までの時間間隔の群間差は認めなかった.各群の平均値は0.105~0.231秒であり,舌骨挙上開始時と舌根部と咽頭後壁の接触時の食塊先端部の位置は92.8%の対象者で一致していた. 舌根部と咽頭後壁の接触時の食塊先端部の位置は,健常群では到達前:7名(36.8%)・到達:12名(58.3%)・通過後:0名,障害群では到達前:2名(4.9%)・到達:18名(43.9%)・通過後:21名(51.2%)であり,群間差を認めた.これより,障害群は健常群に比較して,嚥下開始前に食塊が深部に到達しやすいと考えられた.【結論】重症心身障害児者は健常成人よりも,ペースト食品を嚥下する際に,舌根部と咽頭後壁の接触時の食塊先端部の位置が喉頭蓋谷を通過する対象者数が多かった.