- 著者
-
中村 達也
北 洋輔
藤本 淳平
甲斐 智子
稲田 穣
鮎澤 浩一
小沢 浩
- 出版者
- 一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
- 雑誌
- 日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
- 巻号頁・発行日
- vol.22, no.3, pp.205-213, 2018-12-31 (Released:2019-04-30)
- 参考文献数
- 32
【目的】本研究では,重症心身障害児者の咽頭期嚥下の特徴を,嚥下時舌骨運動を健常成人と比較することで明らかにすることを目的とした.【対象と方法】健常成人24名(健常群)と重症心身障害児者24名(障害群)について,嚥下造影検査(VF)を用いてペースト食品3~5 mLの嚥下を撮影し,30フレーム /秒で動画記録した.第二および第四頸椎を基準線とした座標面を設定し,VF動画をフレームごとに解析することで,舌骨の挙上開始時から最大挙上時までの前方・上方・総移動距離,移動軌跡,下顎 ―舌骨間距離を測定した.さらに,舌骨移動時間を各対象者について共通の時間単位に線形変換後,舌骨運動を挙上相と前進相の段階に分けた.そして,健常群の平均値95%信頼区間下限値を基準値とし,挙上相で基準値を下回った者を挙上相後退群,前進相で下回った者を前進相停滞群と群分けし,評価結果を一元配置分散分析で群間比較した.【結果および考察】挙上相後退群は12名,前進相停滞群は7名であった.分散分析および多重比較の結果,舌骨の前方移動距離は,健常群が挙上相後退群(p<0.01)および前進相停滞群(p<0.01)に比較して有意に大きかった.舌骨の上方移動距離は,挙上相後退群が健常群に比較して有意に大きかった(p<0.01).下顎 ―舌骨間距離は,挙上相後退群が健常群(p<0.01),前進相停滞群(p<0.05)に比較して有意に大きかった.この要因として,挙上相後退群は腹側舌骨上筋群の筋の延長による筋出力低下,前進相停滞群は舌骨下筋群の伸張性低下または低緊張による筋出力低下が考えられた.【結論】重症心身障害児者には,舌骨が主に上方に移動すべき時期に後方に牽引される群と,主に前方に移動すべき時期に移動距離が不足する群が存在した.