- 著者
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豊田 香
- 出版者
- 一般社団法人 日本発達心理学会
- 雑誌
- 発達心理学研究 (ISSN:09159029)
- 巻号頁・発行日
- vol.26, no.4, pp.344-357, 2015
本研究は,専門職大学院ビジネススクール(以下,BS)の学びが,職業的アイデンティティ(以下,職業的ID)に与える変容とそのプロセスを,質的研究法TEAの分析枠組みを用いて可視化し,その結果を状況的学習論の視点から検討することで,個人と企業の共生の在り方の示唆を得ようと試みたものである。分析の結果,職業的IDの変容プロセスは5つの時期区分(第1期:職業的IDの獲得・確立期,第2期:職業的IDの展開/動揺期,第3期:職業的IDの解放期,第4期:職業的IDの拡張期,第5期:職業的IDの創造期)に分類でき,仕事観と仕事に対する信念の変容に伴い,企業組織の正統な職業実践者という職業的IDの確立から始まり,最終的に,社会科学を継続的に学び,それを企業組織に還元する生涯学習者という職業的IDが加わる生涯学習型職業的IDが確立されていることが確認できた。世界標準としての理論を学び続け,それを軸として,自らの職業実践そのものの道筋と,組織の発達の道筋の両方を積極的に創るという,創造性を特徴とするこの生涯学習型職業的IDの形成支援が,個人と企業の共生に有効であると結論づけた。具体的には,①BSなど学術界の「境界領域トラジェクトリー」の形成支援と,②BSなど学術界の境界領域から,企業組織の「内部トラジェクトリー」への往復に正統性を与える境界領域双方向性の「内部トラジェクトリー」と呼べるものの形成支援である。