著者
向井 智哉 松木 祐馬 貞村 真宏
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.2210, (Released:2023-06-22)
参考文献数
36

現在の日本では,被害者のプライバシーに関する証拠(情報)のうち,関連性が低いものが裁判に顕出することを禁じる「レイプ・シールド法」を導入することの是非が論じられている。このような議論を背景に,本研究は,被害者関連情報として,被害者の性的前歴(多×少×記述なし)と職業(風俗従事者×医者×記述なし)がその被告人に対する量刑に及ぼす効果を検討することを主な目的として調査を行った。ドメイン知識を活用しつつ,被害者関連情報の効果を検討するために,分析にはベイズ的アプローチを用いた。分析の結果,被害者関連情報の量刑判断に対する主効果の95%確信区間には0が含まれており主効果は認められなかった。ただし,性的前歴多×風俗従事者に交互作用効果が見られ,被害者は性的前歴が多く,かつ風俗従事者であると記述された場合には,性的前歴や職業に関する記述がなされない場合および風俗従事者であるという情報のみが提示された場合と比較して,被告人に重い量刑が求められることが示された。上記の結果から得られる政策的示唆について論じた。
著者
向井 智哉 松木 祐馬 貞村 真宏 湯山 祥
出版者
法と心理学会
雑誌
法と心理 (ISSN:13468669)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.71-81, 2022 (Released:2023-07-31)

アスペルガー障害は従来の刑事司法ではあまり知られてこなかった。しかし、近年アスペルガー障害を有するとされる被告人に対する量刑は学術的に見ても社会的に見ても広い関心を集めている。このような状況を背景に本研究は、(a)アスペルガー障害を有するとされる被告人と、そうでない被告人ではどちらがより重い量刑を求められるのか、および(b)被告人のアスペルガー障害の有無と量刑判断はどのような要因によって媒介されるのかを探索することを目的とした。分析の結果、(a)アスペルガー障害を有するとされる被告人はそうでない被告人よりもより軽い量刑が求められることが示された。また、(b)再犯可能性、社会秩序への脅威、非難、責任を媒介変数とした媒介分析を行ったところ、傷害致死罪条件における社会秩序への脅威のみが被告人のアスペルガー障害の有無と量刑判断を有意に媒介することが示された。以上の結果が得られた理由およびその実践上の示唆を論じた。