著者
向井 智哉 湯山 祥
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.2203, (Released:2022-08-10)
参考文献数
31
被引用文献数
1

刑罰の正当化根拠を検討する従来の研究には,共通の尺度が存在せず研究ごとに異なる項目が用いられていたため,知見の統合が行いにくいという課題があった。この課題に対応するため,本研究では,刑罰の正当化根拠尺度(Justification of Punishment Scale: JPS)とその短縮版(Shorter version of Justification of Punishment Scale: S-JPS)を作成し,その信頼性・妥当性を検証することを目的とした。予備調査では,刑法学に関する書籍から刑罰の正当化根拠に関する記述を抽出し,それらをKJ法によってカテゴリーに分類した。研究1では,抽出されたカテゴリーに沿って作成された項目を用いて探索的因子分析を行った。その結果,応報,復讐,一般予防,改善更生,隔離の5つの因子が抽出された。研究2では,知見の頑健性を確かめるため再度探索的因子分析を行い,同様の因子構造が抽出されることが示された。信頼性係数は十分に高かった。さらに,シナリオで描写される具体的な事案についての量刑判断の根拠とJPSの対応する因子の相関・偏相関を検討したところ,有意な相関・偏相関が見られた。また短縮版であるS-JPSに含まれる項目を抽出し,JPSと比較したところ,これらの尺度が同様の性質を有することが示された。以上のことより,今後の研究に用いることのできる妥当化された刑罰の正当化根拠尺度およびその短縮版が作成された。
著者
向井 智哉 松木 祐馬 貞村 真宏 湯山 祥
出版者
法と心理学会
雑誌
法と心理 (ISSN:13468669)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.71-81, 2022 (Released:2023-07-31)

アスペルガー障害は従来の刑事司法ではあまり知られてこなかった。しかし、近年アスペルガー障害を有するとされる被告人に対する量刑は学術的に見ても社会的に見ても広い関心を集めている。このような状況を背景に本研究は、(a)アスペルガー障害を有するとされる被告人と、そうでない被告人ではどちらがより重い量刑を求められるのか、および(b)被告人のアスペルガー障害の有無と量刑判断はどのような要因によって媒介されるのかを探索することを目的とした。分析の結果、(a)アスペルガー障害を有するとされる被告人はそうでない被告人よりもより軽い量刑が求められることが示された。また、(b)再犯可能性、社会秩序への脅威、非難、責任を媒介変数とした媒介分析を行ったところ、傷害致死罪条件における社会秩序への脅威のみが被告人のアスペルガー障害の有無と量刑判断を有意に媒介することが示された。以上の結果が得られた理由およびその実践上の示唆を論じた。
著者
向井 智哉 趙 恩慶 松尾 朗子 湯山 祥 田中 友理
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.53-55, 2023-06-07 (Released:2023-06-07)
参考文献数
12

Attitudes toward sexual consent are related to sentencing recommendations for sexual perpetrators in Japan and Canada. However, this tendency may also depend on culture. This study investigated the cultural differences in perceived appropriateness of punishment against sexual crimes as a function of attitudes toward sexual consent in Japan and Korea. Consistent with previous research, the results of the hierarchical regression analysis showed that Japanese participants who perceived sexual consent as important were more likely to perceive punishment as appropriate. However, the opposite pattern was observed among Korean participants. A possible reason for these findings was further discussed.
著者
向井 智哉 湯山 祥 綿村 英一郎
出版者
情報知識学会
雑誌
情報知識学会誌 (ISSN:09171436)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.3-19, 2023-02-28 (Released:2023-04-14)
参考文献数
41

AIが社会に膾炙するようになるにつれ,裁判においてAIを用いることの是非を問う議論も増えつつある.このことを背景に,本研究は,(1)裁判においてAIを使用することを市民はどの程度支持するのか,(2)支持はどのような要因によって規定されるのかを検討した.783名を対象に質問紙調査を行いその回答を分析した結果,以下の2点が示された.(1)支持の得点は理論的中点を下回っていたことから,多くの回答者はAI使用を積極的には支持していない.(2)裁判におけるAI使用への支持は,AIは機械的な処理しかできず,人間のような「温かみ」のある判決はできないというイメージ(「非人間的イメージ」)およびAIを用いると裁判過程が不透明になるというイメージ(「不透明イメージ」)と負の関連を示した一方,AIを用いることで人間の裁判官よりも公平かつ偏りのない裁判ができるというイメージ(「公平イメージ」)と正の関連を示した.