著者
赤羽 由起夫
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.37-54, 2013 (Released:2014-09-10)
参考文献数
25
被引用文献数
1

本稿の目的は, なぜ少年犯罪において「心の闇」が語られるようになったのかを明らかにすることである.「心の闇」は, 1990年代後半から2000年代中頃にかけて社会問題化した戦後「第4の波」と呼ばれる少年犯罪を語るうえで重要なキーワードの1つとなった言葉である. この「心の闇」の語られ方には, それが, 一方で理解すべきものとして語られながら, 他方でどれだけ努力しても理解できないものとしても語られたという特徴がある. つまり, 「心の闇」は, 「心」を理解したいという欲望の充たされなさによって特徴づけられているものであり, ここからは, エミール・デュルケムが『自殺論』で論じたアノミーの存在を指摘することができるのである.そこで, 本稿では, 「心の闇」という言葉がどのような社会状況において人々に受容されるのかについて, デュルケムのアノミー論を援用しながら知識社会学的に考察する. 考察を進めるうえでの参考資料としては, 新聞と週刊誌の少年犯罪報道で語られた「心の闇」を用いる.本稿では, 以下の手順で考察を進めていく. 第1に, デュルケムのアノミー論について概説し, 「心の闇」とアノミーの関係についての仮説を提示する. 第2に, 少年犯罪報道において, どのようにして「心の闇」が語られていたのかを確認する. 第3に, どのようにして「心の闇」がアノミー的な欲望の対象となったのかについて考察する.
著者
赤羽 由起夫
出版者
日本犯罪社会学会
雑誌
犯罪社会学研究 (ISSN:0386460X)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.104-118, 2012-10-31 (Released:2017-03-31)
被引用文献数
2

本論の目的は,少年犯罪と精神疾患の関係の語られ方の内容とその歴史的な変遷の分析を通じて,1990年代以降の少年犯罪の医療化の特徴を明らかにすることである.そのために本論が分析資料として用いるのは,終戦から現在までの『朝日新聞』,『毎日新聞』,『読売新聞』の縮刷版から選出した精神疾患に言及のある少年犯罪の記事,および精神疾患についての記事である.分析の結果,明らかになった知見は,次の三点である.第一に,終戦から1970年代までに少年犯罪と関係づけられて語られた主な精神疾患には,精神分裂病,精神病質,精神薄弱,ノイローゼがある.第二に,1990年代以降に少年犯罪と関係づけられて語られた主な精神疾患には,行為障害と発達障害がある.第三に,1990年代以降の少年犯罪の医療化の背景には,第一に,精神疾患が指摘されやすい「普通の子」による少年犯罪が社会問題化したことと,第二に,教育問題までも包含する精神疾患として行為障害と発達障害の概念が登場したことがあげられる.
著者
赤羽 由起夫
出版者
日本犯罪社会学会
雑誌
犯罪社会学研究 (ISSN:0386460X)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.19-32, 2017 (Released:2018-10-31)

本論文の目的は,脳科学と少年観の関係について,社会学的にどのように捉えたらよいかを考察す ることである. 現代の日本では,脳科学の知識や技術の広がりが,さまざまな影響を社会に及ぼしている.ここで は,脳科学の知識や技術が社会に普及し,影響を及ぼしていく過程を「社会の脳科学化」と呼ぶ.本 論文では,社会の脳科学化が脳科学と少年観の関係にもたらす影響について議論する.議論の結果は, 以下の5点にまとめられる. 第1に,脳科学と少年観の関係を捉えるためには,あらゆる脳科学の使用法を考慮する必要がある. 第2に,社会の脳科学化を促進する社会的文脈としては,新自由主義的な主体像の浸透が有力な仮説 の1つである.第3に,少年に対する処罰と教育の関係については,なにが社会化すべき能力とみな され,どのくらいその能力の発達可能性があるとみなされているのかを見る必要がある.第4に,少 年に対する治療と教育の関係については,なにが逸脱とみなされ,どのように脳科学の知見が使用さ れるのかを見る必要がある.第5に,少年に対する事前統制と事後統制の関係については,それらの 重点の変化を見る必要がある.
著者
赤羽 由起夫
出版者
日本犯罪社会学会
雑誌
犯罪社会学研究 (ISSN:0386460X)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.104-118, 2012

本論の目的は,少年犯罪と精神疾患の関係の語られ方の内容とその歴史的な変遷の分析を通じて,1990年代以降の少年犯罪の医療化の特徴を明らかにすることである.そのために本論が分析資料として用いるのは,終戦から現在までの『朝日新聞』,『毎日新聞』,『読売新聞』の縮刷版から選出した精神疾患に言及のある少年犯罪の記事,および精神疾患についての記事である.分析の結果,明らかになった知見は,次の三点である.第一に,終戦から1970年代までに少年犯罪と関係づけられて語られた主な精神疾患には,精神分裂病,精神病質,精神薄弱,ノイローゼがある.第二に,1990年代以降に少年犯罪と関係づけられて語られた主な精神疾患には,行為障害と発達障害がある.第三に,1990年代以降の少年犯罪の医療化の背景には,第一に,精神疾患が指摘されやすい「普通の子」による少年犯罪が社会問題化したことと,第二に,教育問題までも包含する精神疾患として行為障害と発達障害の概念が登場したことがあげられる.