著者
奥山 亮 辻本 将晴
出版者
特定非営利活動法人 産学連携学会
雑誌
産学連携学 (ISSN:13496913)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.2_127-2_134, 2017 (Released:2018-01-18)
参考文献数
34

近年,創薬の基礎研究から医薬候補化合物の創出までの全研究段階をアカデミア研究者が行うアカデミア創薬が推進されている.その背景と現状について産学官各々の見地から実証的に検討した.日本のアカデミア創薬プロジェクトは2009年以降急速に増加したが,産からのニーズは小さく,社会貢献を求められる大学の自主的な動きに加え,創薬の国際競争力強化を狙う政府が国策的に主導したことが明らかとなった.しかし,2009年以降アカデミア創薬で創出された医薬候補化合物の多くが,製薬企業が重点入力する低分子化合物と癌領域のプロジェクトだったにも関わらず,企業導出を図れず中止・停滞していた.アカデミア創薬の課題と方向性について産学官の果たすべき役割を中心に議論する.
著者
奥山 亮 辻本 将晴
出版者
法政大学イノベーション・マネジメント研究センター
雑誌
イノベーション・マネジメント (ISSN:13492233)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.141-156, 2020-03-31 (Released:2020-03-31)
参考文献数
45

創薬は典型的なサイエンス型研究開発であり、基礎研究が新薬創出に大きく貢献してきたことは繰り返し指摘されている。しかしながら、医科学の基礎研究は主に生体機能の解明を目指してなされており、創薬を一義的に狙ったものではない。このことは、基礎研究で明らかにされる多数の新規生体分子や生理的機序といった科学的知見の中から、実際に創薬に結びつく分子やメカニズムを正しく選別する能力(本稿では「創薬標的選定能力」と呼ぶ)が創薬研究者に極めて重要であることを意味する。しかしながら、この「創薬標的選定能力」の概念は、これまでの研究では殆ど考慮されてこなかった。本稿では、日本発の革新的創薬事例を取り上げ、その研究プロセスの詳細な分析より、基礎研究成果の中から適切な創薬標的となる分子やメカニズムを選択する研究者の「創薬標的選定能力」が、創薬研究の競争優位を生むことを述べる。また、「創薬標的選定能力」の醸成には、生体機能を解明する医科学基礎研究への理解に加え、疾患の発症機序や先行薬剤の作用機序に対する深い理解と洞察が必要なことを述べる。本研究がもたらす学術的、実務的意義についても論ずる。
著者
奥山 亮 辻本 将晴
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
pp.iken.2017.001, (Released:2017-07-31)
参考文献数
38
被引用文献数
4

近年,我が国では創薬の基礎研究から医薬候補化合物の創出までの全研究段階をアカデミア研究者が行うアカデミア創薬が推進されている。アカデミア創薬においては,従来企業が中心で行ってきた創薬応用研究部分(リード物質から薬効・薬物動態・安全性を最適化して医薬候補化合物の取得を目指し,並行して創薬標的の妥当性検証を行う研究段階)もアカデミア研究者が実施するが,創薬応用研究はアカデミアの基礎研究とは内容も志向性も異なるため,アカデミア創薬における応用研究部分の研究達成度には懸念が持たれている。この問題を実証的に検討するため,日本の製薬企業もしくは大学等公的研究機関が臨床開発を実施した医薬候補化合物の情報を過去40年程度にわたって網羅的に収集し,分析した。その結果,アカデミア創薬で生み出された医薬候補化合物は,産学連携による創薬で生み出された化合物より臨床開発段階での成功率(上市に至る確率)が有意に低いことが分かった。臨床開発段階の失敗理由の大部分は創薬応用研究段階で見極めが行われる薬効,薬物動態,安全性によると報告されているため,このデータはアカデミア創薬における応用研究部分の研究達成度が相対的に低いことを示唆する。本結果より,アカデミア創薬の問題点や取るべき方向性を議論する。