著者
鄭 暎惠 郭 基煥 李 善姫 師岡 康子
出版者
大妻女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

初めてヘイトスピーチを聞いた時「反感を感じた」71.9%、「驚いた」61.1%、「恐怖を感じた」49.7%の一方、「共感した」8.3%。「街頭で一緒にヘイトスピーチを唱えたい」1.7%、逆に「街に出てカウンター行動に参加したい」は10.4%。ヘイトスピーチを繰り返し聞くうち「違和感が増加した」52.8%、逆に「違和感が減少した」10.4%。ヘイトスピーチを「表現の自由」と見なすのは23.4%、「法で規制すべき」は47.6%。法規制すべきなのは、「人権を侵害する言動」76.3%、「特定の社会的弱者への憎悪表現」10.9%、「表現の自由を侵害する言動」38.2%、「思想信条の自由を侵害する言動」37%、「特定の政治家への憎悪表現」10.9%。外国人が増える結果として「日本の文化が豊かになる」70.7%、「社会の活性化」70.4%、「経済の活性化」59.2%、「日本人の働き口が奪われる」34%、「日本の文化がそこなわれる」22.5%。グローバル化で競争は激化、労働条件は悪化し、貧富の格差も拡大、将来への不安や閉塞感が増す中、少子高齢化で日本経済の停滞が懸念されるため、外国人に肯定的期待を寄せる者は少なくないが、外国人が対等・優位になり自分の既得権益が脅かされたり、追い抜かれる場合に排他的な傾向が強まる。「全体主義、排外主義ではなく、一人一人が大切にされ、お互いの個性、豊かさを尊重する、豊かさを分け合い、共に生きる社会を望んでいます。ヘイトスピーチをする人々は社会の中で自分が大切にされているという実感がないのではないでしょうか」(日本籍女性・自由記述より)ヘイトスピーチのターゲットとされた人々のアイデンティティにダメージを与える、特に子どもの成長に悪影響が大きいと考えられている。コミュニティの中で生きる場合より、孤立無縁でカミングアウトせずに生きる方がダメージが深いと思われる。
著者
郭 基煥 曹 慶鎬 兪 キョン蘭
出版者
東北学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究の目的は、被災地に暮らす外国出身者が震災後にどのような状況に置かれていたのかをトータルに把握することである。調査で明らかになった主な点は、次の通りである。①多くの外国出身者が被災直後においては支援されつつも、支援する側に回っていたこと、②震災という共通の経験を持つことで地域に対する一体感が強まった考えられる事例が多数みられること。③その一方で被災地では、外国人が犯罪をしているという流言が広範に広がっていたこと。④流言を聞いた人のうちの8割以上の人がそれを信じたこと、⑤流言を信じるか信じないかという態度の差は地域や性別、収入、職業などとほとんど無関係であることである。
著者
郭 基煥
出版者
東北社会学研究会
雑誌
社会学研究 (ISSN:05597099)
巻号頁・発行日
vol.97, pp.15-48, 2015-12-18 (Released:2022-01-14)
参考文献数
20

東日本大震災のあと、いたるところで国家や民族を含めた社会的カテゴリーが一時中断されるという現象が見られた(災害時ユートピアの一形態)。そこには、外国人と日本人の間の境界を越えた「共生社会」に向けて、ドラスティックな転換が起こり、「想像の共同体」としてのネーションのリアリティが減退した社会が後続する可能性が孕まれていた。しかし、これまでのところ、ヘイトスピーチなどに象徴されるように、特に日韓関係に関する現実は、複数の場面でそうした方向とは正反対の方に向かって進んできたように見える。本稿では、特にコリアンの震災経験を検証することで、こうした「現実」がそれとは別のものになっていたかもしれない可能性を探り、特に在日コリアンを標的とする日本における排外的なナショナリズムを超えるための方策を考察する。 排外ナショナリズムについては、日本国内の格差が背景にあるとする議論がある。また戦後の日本政府による政策に根本的な問題があるとする議論もある。また特に前者の観点に立って、排外ナショナリズムの克服には、いわば「賢明なナショナリズム」が必要だとする考えもある。本稿ではこれらの議論の検討を通し、最終的には、どのようなナショナリズムによっても排外ナショナリズムは乗り越えられず、問題の解決にはむしろ震災時に見せた〈共生文化〉を現在に継承した地域社会の成熟こそが求められている点を示すことになる。