- 著者
-
酒井 一光
- 出版者
- 大阪市立博物館
- 雑誌
- 奨励研究(A)
- 巻号頁・発行日
- 1999
研究題目について、昨年度の摂津の事例に続き、本年度は全国の代表的な事例について調査を進め、神仏分離における神社境内の「仏教的建造物」の保存・転用の実態について研究、分析した。今回の調査・研究を通して以下の点を明らかにした。神仏分離における神社境内の「仏教的建造物」の排除は、必ずしも神社側の本位ばかりではなかった。その際、境内の由緒ある建造物は以下のような方法で移築、転用された。1.神社境内の「仏教的建造物」が機能を変え、一部改造を受けた上で、神社の社殿のひとつに転用された。今回の調査ではこの事例が最も多くみられた。例)知立神社(愛知県)多宝塔→知立文庫に改造し現地保存2.神社境内の「仏教的建造物」は売却され、移築の上、当時荒廃していた寺院の復興にあてられた。例)旧住吉神宮寺西塔(大阪市)→切幡寺(徳島県)に移築3.神社境内の「仏教的建造物」がそのまま、当初の機能として、神仏分離以前の場所に残された。その場合、その建造物のみが、旧神宮寺などの飛地境内となったことがある。また売却後、移築が遅れたり、買い手が付かないためにその場所に残され、古社寺保存法成立以降、文化財的価値が認められて保存された場合もある。例)花岡八幡宮(下松市)多宝塔→隣接する閼伽井坊の飛び地境内として現地保存4.神仏分離以降、寺院が神社となり、境内の堂宇が一部改変され、神社の社殿に転用する例が見られた。例)永福寺(高槻市)→畑山神社に変更し現地で保存5.廃寺により、寺院境内の建造物が神社に移築された。例)常楽寺(茨木市)堂宇→廃寺にともない井於神社(摂津市)に移築6.鎮守社が寺院から独立し、社殿はそのままに単独の神社となった。例)広済寺(尼崎市)久々知妙見祠→久々知須佐男神社に変更し現地で保存