著者
酒井 幸子 林 亮太 村田 浩一 山田 格 浅川 満彦
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
Japanese journal of zoo and wildlife medicine (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.81-84, 2009-03

紀伊半島沖で捕獲されたシャチOrcinus orca 1個体(成熟雄)の体表から甲殻類2種(フジツボ類[蔓脚下綱]1個体およびクジラジラミ類[軟甲綱]22個体)が得られた。本研究では,約20年間にわたり保存されていたこれら標本について,形態学的に検討した。その結果,フジツボ類はエボシフジツボXenobalanus globicipitis(Coronulidae)と同定された。本種は日本含め世界各地のクジラ類で報告があるが,シャチでは初記録となった。一方,クジラジラミ類は,Cyamus属であったが,未成熟であったため種の同定はできなかった。クジラ類の着生生物は片利共生体(例えば便乗phoresyなど)であるが,地中海のイルカ類ではX.globicipitisおよびエボシガイ類(LepasおよびConchoderma:エボシガイ科)の寄生個体数は,イルカ類の遊泳速度減少により有意に上昇し,特に致死直前に顕著になるという。よって,外部寄生虫の種(標本の保存),寄生数,寄生部位,同部の病変などの記録は,健康管理上のデータの一部として活用されるであろう。