- 著者
-
里村 和歌子
- 出版者
- 日本社会学会
- 雑誌
- 社会学評論 (ISSN:00215414)
- 巻号頁・発行日
- vol.70, no.4, pp.325-342, 2020 (Released:2021-03-31)
- 参考文献数
- 35
本稿は,「作家さん」というハンドメイド作品を自ら売る主婦たちの労働的行為に焦点を当てながら,なぜ,どのようにハンドメイド作品を売ることができるのかについて考察する.具体的には,先行研究で論じられた,美術,家父長制,資本主義という三つ巴のイデオロギーによって無償労働の「穴」に追いやられてきた「手芸」が,なぜ,現代の「作家さん」たちにとっては稼得源となるのかについて,フィールドワークをとおして考察した.その結果わかったことは以下の3 つである.1)「作家さん」は家内領域でたまたま発見したハンドメイドという技能を資源として市場で売ることで経済的対価を得ているが,それらは総じて低価格である.2)低価格の理由は,「作家さん」という存在が作家である以上に,無償労働の担い手として期待される主婦を前提としているからである.しかし3)完全に無償にならないのは,「作家さん」の雇用されない,自律的な協働が商品の交換価値を生んでいるためである.労働者とも主婦とも定義しきれない中途半端な存在である「作家さん」は,家内領域を足場にしたつくり売るという行為によって,ジェンダーにより不均衡に配分された公共/家内領域の境界を知らず知らずのうちにはみ出している.