著者
石原 卓 野上 恵嗣
出版者
日本小児血液・がん学会
雑誌
日本小児血液・がん学会雑誌 (ISSN:2187011X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.201-207, 2017 (Released:2017-12-08)
参考文献数
25

L-アスパラギナーゼ(L-Asp)を含む小児急性リンパ性白血病(ALL)の寛解導入療法の合併症の一つに凝固障害症がある.L-Asp投与によるアスパラギンの枯渇から生体内での蛋白合成が阻害され,肝臓における凝固因子や線溶因子などの産生障害がL-Asp関連凝固障害症の機序の一端になり得るとされるが,L-Asp関連凝固障害の病態はいまだ完全には解明されていない.新鮮凍結血漿,アンチトロンビン製剤,低分子ヘパリンなどによる支持療法が行われてきたが,至適な支持療法の確立にも至っていない.我々の教室は,包括的な凝固能と線溶能を同時に評価可能なトロンビン・プラスミン生成試験(T/P-GA)を新たに確立し,小児ALL3例(第1寛解期の再寛解導入療法2例と初発時寛解導入療法1例)においてこの評価法を用いて検討した.3例ともL-Asp投与中は包括的な凝固能が亢進し,逆に線溶能は抑制され,特にL-Asp投与相後半のフィブリノゲン(Fbg)低下時に向凝固・低線溶状態が顕著であり(差が1.5~2.6倍),相対的に凝固能優位な凝血学的に不均衡状態であることを初めて報告し,真の病態解明への第一歩を踏み出すに至った.L-Asp関連凝固障害の病態解明と最適な支持療法の確立のために,現在,血栓症の好発時期とされる寛解導入療法後半に着目し,新規診断された小児ALLの寛解導入療法において試料を収集して包括的な凝固線溶機能解析を行う多施設共同の前方視的臨床研究が進行中である.
著者
篠澤 圭子 野上 恵嗣
出版者
一般社団法人 日本血栓止血学会
雑誌
日本血栓止血学会誌 (ISSN:09157441)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.482-493, 2014 (Released:2014-09-03)
参考文献数
45
被引用文献数
1

要約:APC レジスタンス(APCR)の原因として発見されたFactor V R506Q(FV Leiden)変異は,欧米白人における主要な静脈血栓症のリスクファクターであるが,これまでアジア人からは検出されていない.今回私達は,血漿FV 活性が低下しているにもかかわらず,重篤な深部静脈血栓症をおこした日本人少年のFV 遺伝子からW1920R(FV Nara)変異を同定し,日本人において初めてAPCR に関連する血栓性素因を報告した.FV-W1920R は,APC から受ける不活性化と,APC によるFVIIIa の不活性化におけるコファクターとしての機能の,両者の機能障害によってAPCR を示すことを解明した.とくに,APC によるFVIIIa の不活性化に対するFV-W1920R のコファクター機能は,FVIII のR336 の開裂を完全に阻止することにより,FV-R506Qよりも強い機能不全であることを明らかにした.