著者
小川 弘美 黒川 千尋 星野 睦代 玉崗 慶鐘 東光 照夫 柴 肇一 真鍋 厚史
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.197-205, 2016 (Released:2016-05-06)
参考文献数
16
被引用文献数
1

目的 : 歯の漂白法は歯科臨床において不可欠な治療となりつつあるが, 処置後, 有色飲食物や酸性食品の摂取が制限される. 近年, 着色物や酸性物の影響を軽減できるとされるポリリン酸含有の漂白剤が臨床に紹介されている. 本研究は, ヒト抜去歯を用いポリリン酸含有の試作漂白剤の漂白・着色抑制・脱灰抑制効果を検討したものである. 材料と方法 : 35本のヒト抜去歯を漂白効果の検討に使用した. 処理は, 10%ポリリン酸と10%過酸化尿素の混合溶液 (PPa+CP), 10%ポリリン酸 (PPa), 10%過酸化尿素 (CP), Nite White Excel (NWE), 人工唾液サリベート (SA) の5群に分け各試片数は7とした. 各群は1回2時間, これを14回行い, 処理前後のL*a*b*値から色差ΔE*ab値を算出した. 別の35本のヒト抜去歯を着色抑制効果の検討に用いた. 漂白効果と同様の試片を用い, 各群で2時間処理後, ただちに着色液 (珈琲液) に15分間浸漬し着色液浸漬前後のL*a*b*値から色差ΔE*ab値を算出した. 脱灰抑制効果の検討は, 走査型電子顕微鏡 (SEM) 観察で2本, キャピラリー電気泳動試験で3本のヒト抜去上顎前歯を使用し, それぞれ, エナメル質表面をPPa, SAまたは蒸留水で2時間処理した後, 40%リン酸で30秒間処理し水洗したものを試料とした. 処理後のエナメル質表面をSEM観察 (n=2), 処理後の希釈液についてカオチン分析キットを用いキャピラリー電気泳動でCa溶出量を測定した (n=3). 結果 : 漂白後, NWE, PPa+CP, CPの色差ΔE*abは大きな値を示したが, PPa+CPとNWEの間に有意差は認められなかった. 色素沈着の検討では浸漬後, PPa+CP, PPaの色差ΔE*abはCPとSAと比較し有意に低い値を示した. SEM像は, 両群ともにエナメル小柱断面の構造が認められ, PPa群と比較してSA群がより深層まで脱灰されている像が観察された. Ca2+はSA群での溶出量を100%とすると, PPa群では66.3%となった. 結論 : 本研究では, ポリリン酸を含有した試作漂白剤は従来の漂白剤と同等の漂白効果があり, 着色抑制・脱灰抑制効果を有することが示唆された.
著者
江川 薫 野中 直子 星野 睦代 高野 真 滝口 励司
出版者
Showa University Dental Society
雑誌
昭和歯学会雑誌 (ISSN:0285922X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.74-85, 1999-03-31
被引用文献数
1

骨を構築する基質線維は, 圧縮, 牽引, 歪み, 振れなどの応力に対抗するための適合性をもった配列を呈している.骨に加わる応力と骨層板および線維性基質の配列との係わりを検討する目的で, 解剖学実習用男性遺体の脛骨を用いて, 基質線維の配列を高分解能の走査電子顕微鏡で立体的に観察した.緻密骨層板の表層基質線維を観察するための試料は, 実体顕微鏡下で外骨膜の線維層を剥離した.基礎層板とハバース層板の線維性基質を観察するための試料は, 緻密骨の水平断面と垂直断面を作製して, 切断面の研磨を行った.すべての試料はEDTAで脱灰を施し, トリプシン処理後, 導電染色, 上昇アルコール系列による脱水, 液化炭酸ガスによる臨界点乾燥, 白金-パラジウムのイオンスパッタコーティングの後, 電界放射型走査電子顕微鏡で観察した.筋の付着がない脛骨体内側面の外基礎層板の最表層は大部分が骨の長軸方向に配列された基質線維束で構築されていた.脛骨体外側面の中央部の基質線維束も骨の長軸方向に配列されていた.脛骨体外側縁には約500μmの幅で骨間膜が基質線維束に侵入していた.脛骨体近位端外側面の最表層基質は交錯した基質線維束で構築され, 基質線維東間には前脛骨筋および縫工筋の腱が侵入していた.脛骨体前縁では基質線維束の大部分は骨の長軸方向に配列されていた.脛骨体後面の近位骨幹端の最表層は交錯した基質線維束で構成されていた.後面中央部および下部の最表層の基質線維束はほぼ骨の長軸方向に配列されていた.脛骨体の内表面の最表層は大部分が骨の長軸方向に配列された基質線維束で構築されていた.脛骨体の外基礎層板では約5μmの厚さの層板と約3μmの厚さの層板が交互に配列されており, 交互に隣接している層板の基質線維束はやや斜めに交叉していた.ハバース層板を構成する基質線維束はほぼ上下方向に配列された基質線維束からなる厚さ約4μmの層板と, 基質線維束がほぼ同心円状に配列された厚さ約2μmの層板とが交互に配列されていた