著者
野田 百美
出版者
日本脳循環代謝学会
雑誌
脳循環代謝(日本脳循環代謝学会機関誌) (ISSN:09159401)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.77-81, 2015 (Released:2015-08-07)
参考文献数
26
被引用文献数
2 1

要旨 脳白質のモデルとして使われているマウス視神経を用い,飲用水中の分子状水素(H2)が虚血による視神経機能障害を改善させるかどうかを検討した.視神経機能の測定には,摘出後,複合活動電位(CAP)の面積を測定した.灌流チャンバーを脱酸素・脱グルコース(OGD)にすると,CAP は速やかに消失し,再灌流後は25%程度しか回復しない.ところが,10~14 日間,H2 水を飲用したマウスの視神経では,CAP が完全に消失することはなく,再灌流後の回復も顕著に改善された.虚血・再灌流後の視神経線維の脱落は,H2 水飲用群で有意に減少しており,グリア細胞(とくにオリゴデンドロサイト)の核8-オキソグアニン(nu8-oxoG:酸化DNA 障害のマーカー)の蓄積は,H2 水飲用群において,有意に抑制されていた.これらの結果は,有髄神経が占める白質の保護にH2 水飲用が有効であることを示唆しており,酸化ストレス耐性と治療の有用性が期待される.
著者
野田 百美
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

我々は、微量の分子状水素(水素ガス、飲水中 0.008 ppm)が神経保護作用をもつことをパーキンソン病モデルマウスで示したが(Fujita et al., PLoS One, 2009)、単にヒドロキシルラジカル消去剤としての抗酸化作用だけではなく、持続性の神経保護作用を持つことが示唆された。新たな作用メカニズムとして、シャペロン分子である熱ショックタンパク(Hsp) 72 の発現や、消化官ホルモン・グレリンを介した作用が示唆された。これらの結果は、水素水の慢性摂取による予防医学の解明に大いに貢献することが期待される。
著者
野田 百美
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

申請者は中枢神経系における甲状腺ホルモンの機能と、その機能異常による神経・精神症状に注目してきた。血中甲状腺ホルモン(前駆体:T4)はトランスポーターを介して脳内・アストロサイトに取り込まれ、タイプ2脱ヨード酵素(D2)によって活性化型(T3)に変換された後、種々の細胞に作用する(Noda, 2015)。我々は脳内免疫細胞であるミクログリアにもT3の受容体が発現し、顕著な遊走性・貪食性亢進を起こすことを初代培養ミクログリアを用いて報告した(Mori et al., 2015)。一方、成体では、甲状腺機能亢進症モデルマウスを用いてグリア細胞を観察したところ、いずれも、性と週齢によってグリア細胞の形態変化や行動が異なることがわかった(Noda et al, 2016)。臨床的には、甲状腺機能亢進症・低下症は様々な中枢神経系疾患と関連がある他、高齢者の甲状腺機能低下症と、アルツハイマー病発症リスクは深い関係にあり、性差が顕著に存在することも報告されている。しかし、こうした甲状腺機能異常症と神経・グリア連関、性ホルモンと加齢の影響について、その分子基盤は殆ど解明されていない。加齢によって増える甲状腺機能異常は殆どが低下症であり、高齢化社会で増えるウツや認知症には、甲状腺機能低下症が大きく関わっている。従って、ウツや認知症の予防・治療のために、適切な甲状腺機能低下症モデルを作成し、脳の機能形態学的変化、行動や認知に及ぼす影響を検討した。1)グリア細胞とシナプスの三次元構造解析:海馬ニューロンのシナプススパイン(棘)の3次元構造を解析したところ、若齢オスの甲状腺ホルモン亢進症、低下症におけるスパインの形態変化を比較・検討した。2)甲状腺機能低下症がもたらす行動・認知機能変化:甲状腺機能亢進症モデル・低下症における行動変化、記憶と学習、その性差と加齢の影響を検討した。
著者
赤池 紀生 賀数 康弘 鍋倉 淳一 ANDRESEN Michaelc 李 禎そぶ ANDRESSE M.C 野田 百美
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

延髄孤束核(NTS)において,染色された上行性大動脈弓由来降圧神経(ADN)は孤束を介してmedial NTSの樹状突起と細胞体に投射していた.ADNからの入力を受ける細胞は,ADNから単シナプス性入力を受けない細胞よりもカイニン酸応答が約2倍に増強していた.また,ADNからの神経伝達物質はグルタミン酸であり,後シナプスNTS細胞におけるグルタミン酸受容体はnon-NMDA受容体であった.また,後根神経節などの感覚器受容細胞にはVR-1(バニロイド配糖体)受容体が高密度に発現しているが,ADN神経終末にもVR-1受容体が存在しグルタミン酸放出が増強することが明らかとなった.しかしVR-1受容体のアゴニストのカブサイシン頻回投与ではむしろグルタミン酸放出量が減少したことから,後シナプスNTSニューロン上のnon-NMDA受容体が脱感作するか,もしくはグルタミン酸放出が枯渇する可能性が考えられた.さらに,VR-1受容体が高密度に発現している部位にはATP受容体の一つであるP2X3受容体が共存していることが1997年にCaterinaらによってNature誌に報告されており,medial NTSより得たシナプスブートン標本においても,P2X1,3,2/3受容体アゴニストのαβ-met ATPならびにカプサイシンともに,後シナプス細胞に影響することなくグルタミン酸の放出のみを増強した.以上の結果から,VR-1受容体とP2X受容体はグルタミン酸作動性興奮性神経終末部に共存してグルタミン酸の放出を促進し,その結果NTSニューロンの興奮を惹起して降圧効果を示すことが初めて明らかとなった.