- 著者
-
野田 知子
伊深 祥子
- 出版者
- 日本家庭科教育学会
- 雑誌
- 日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.53, pp.82, 2010
家庭科教育学会課題研究1-1のグループでは、「食に関する教育 ―行動変容を目指した授業の検討―」という課題に取り組んだ。課題研究では、授業において、生徒が自己効力感をもつことが、意識と行動の変容を起こすことになるのではないかという仮説を立てた。 <br>研究の目的<br> 自己効力感を高める授業の要素は何か、を明らかにする。<br>研究の方法<br> 授業後の自由記述調査により、自己効力感が高まったという結果を得た、授業「なぜひとりで食べるの」(授業者:伊深祥子)を研究対象として、授業内容を録音、文字化して、次の二つの方法で分析した。<br>A.授業後、5人の教師・研究者で構成される研究会で、授業内容を共有した上で、授業者が省察し、検討をした。その内容を授業記録の「教師の思い・判断」に記入、また、その時の「教室の雰囲気」、授業の中での生徒の発言に対して教師が「発言の意味を推測」して記入して検討した。<br>B.授業記録から、教師と生徒の対応の仕方の特徴を探った。<br>省察(reflection)を協同でおこなう意味<br> 「教師の思い・判断」について、授業者は「研究会で言葉にして初めて認識した」と述べている。授業の中で、教師はその瞬間にとっさの判断で生徒の言葉に応えたり質問したりしている。その時の思いは記録には残らない。そこで複数の教師・研究者との協議の中で、その時、なぜそのような言葉を発したのかを思いだし言葉にすることで、「教師の思い・判断」が明確になる。また同時に、そのことが授業者・協議参加者の学びになる。<br>授業の流れ<br> 【_丸1_自分の食卓の絵を描く _丸2_VTR「なぜ一人で食べるの」(NHK1999年)を視聴する _丸3_「一人で食べる子どもたち」について考えたことを書く _丸4_皆の書いた考えを印刷して配り、その中からふたつ選んで、共感・批判の意見を述べる】 分析した授業は_丸4_の授業である。<br>結果<br>1.参加型の授業である<br> 授業は、生徒の声が交流する授業、教師と生徒が応答する授業である。・「なんで?」という言葉が13回以上記録されている。・「こんなこと話し合っても意味ないじゃないの。何も変わらないんじゃないの」というような授業の意味を否定する意見も言える。<br> 生徒が主体的に自分の言葉で発言できることは自己効力感を高めることの土台となると考える。 参加型の授業ができる要素として下記の3点があげられる。<br> _丸1_積極的に考える生徒(「考える授業」に取り組む)<br> _丸2_意見・批判・共感等をじっくり考えさえ述べることの出来る時間<br> _丸3_入学時から取り組んだ教室の風土など<br>2.共感を示す教師・発言する生徒の存在をまるごと受け止める教師<br> ・・授業者は「一人で食べる事が多いので、全員で食べたら疲れちゃったんだね」など、生徒の発言に共感を示す対応をしている。「共感」という言葉が、1コマの授業の中で、教師13回、生徒5回記録されている。<br>・発言している生徒に対して、「Kの家は複雑な家庭だ。大丈夫かな?」<br> 「ちょっとKを助けよう」など、生徒の背後にある家庭状況なども考慮して応答している。<br> 生徒の多様な意見や生徒の存在を丸ごと受け止める教師、価値観の一方的な押しつけはしない教師の姿勢が、生徒の発言意欲につながり、生徒の声が交流する授業を成立させ、生徒の自己効力感を高めることにつながると考える。