著者
五味 馨 金 再奎 松岡 譲
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集G(環境) (ISSN:21856648)
巻号頁・発行日
vol.67, no.6, pp.II_225-II_234, 2011 (Released:2012-03-16)
参考文献数
9
被引用文献数
1

本研究では地方自体において長期的な低炭素社会へのロードマップ(行程表)を構築する手法を開発する.行程表を推計するためのツールとして施策の実施主体の費用負担を考慮して施策実施スケジュールを推計するバックキャスティングツール(BCT)を開発する.これを滋賀県に適用しておよそ240の施策からなる行程表を構築した.滋賀県はすでに2030年の低炭素目標及びその時点で導入されているべき施策を策定しており,本研究ではそれらの施策を2030年までに全て実施するための行程表を2010年から2030年の期間で推計した.その結果,期間全体で必要とされる累積費用は7.3兆円となり,そのうち約17%が公的部門の費用となった.累積排出削減量は101MtCO2で平均削減費用は7.3万円/tCO2となった.これらの費用をどのようにして調達するか,また,国,県,市町のそれぞれがどれだけを負担するか,といった議論が必要であると考えられる.
著者
木村 道徳 河瀬 玲奈 金 再奎 岩見 麻子 馬場 健司
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.213-226, 2022-07-31 (Released:2022-07-31)
参考文献数
29

本研究では,行政によるヒアリングやワークショップなどの質的調査を通じて蓄積されている,気候変動に対する影響の実感や不安に関するテキストデータを対象に,市民およびステークホルダーの影響認識を構造的に把握するための手法を検討するとともに,滋賀県を対象に実践を行った。気候変動適応策の推進には,市民と地域のステークホルダーの関与が重要であり,行政によるこれら主体の気候変動影響の認識の把握が必要になると考えられる。しかし,行政により蓄積が進められている気候変動影響の認識に関する情報は,自然言語で記述されているテキストデータが多く,これまで研究対象として分析が進められてはこなかった。本研究では,行政による質的調査を通じて,滋賀県内の市民および農林水産業,産業分野の主体から得られた気候変動影響の認識に関するテキストデータを対象に,テキストマイニング手法を適用した。その結果,「琵琶湖と自然生態系への影響」と「台風被害と獣害,水稲」,「降雨降雪の極端化による災害および森林と林業への影響」,「夏と冬における気温上昇の影響」,「季節の変化」の5つの話題を特定することができた。また,対象者属性とのクロス集計の結果,市民は幅広い分野に言及しているのに対して,農林水産業の主体は各分野の具体的な気候変動影響の因果連鎖についての情報を補完していた。各主体のテキストを組み合わせることで,地域で顕在化しつつある気候の変化とそれに伴う影響の因果連鎖を市民およびステークホルダーがどのように認識しているのか,詳細に把握することが可能になることがわかった。