著者
馬場 健司 木村 宰 鈴木 達治郎
出版者
Sociotechnology Research Network
雑誌
社会技術研究論文集 (ISSN:13490184)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.68-77, 2004
被引用文献数
4

近年急速に導入が拡大している風力発電の立地, 大規模ウィンドファームの開発については, いくつかの公益を巡ってコンフリクトが発生するケースがしばしばみられる. 立地プロセスにおけるアクターの参加の場や意思決定手続きについて, 文献調査とヒアリング調査により日米のケースを比較した結果, 以下が明らかとなった. 日本では自然公園での立地ケースについては公式プロセスの中で景観に限定したアジェンダが設定されるのみであるのに対して, 制度要求に基づく環境影響評価が適用された米国の洋上立地ケースでは, 第三者的専門家による非公式プロセスが補完しながら, そこで得たインプットが公式プロセスへとフィードバックされるなど, 事業の早い段階から幅広い参加の場とアジェンダが設定されている.
著者
馬場 健司 田頭 直人
出版者
社会技術研究会
雑誌
社会技術研究論文集 (ISSN:13490184)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.77-92, 2009 (Released:2010-05-14)
参考文献数
26

再生可能エネルギー技術の導入に係る社会的意思決定プロセスのデザインについて参考となる知見を得るため,風力発電の立地を題材として,全国的な環境論争とそれに対する地方自治体の環境規制の動向と立地地域住民の態度形成を分析した.その結果,第1に,自治体が第三者としてどのように調整介入するかは意思決定プロセス全体に及ぼす影響が大きい可能性があり,調整介入の1つの形態として,環境規制の上乗せ・横出し規制のボトムアップ的な中央地方関係と政策波及が観察された.第2に,意思決定プロセスにおいて約40%を占める観察層(総論としては関与意向を持つにも拘らず各論としては関与意向を持たない)は,地域環境に配慮しない技術導入に反対する傾向があり,論点設定などに留意する必要がある.
著者
小杉 素子 馬場 健司
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.227-236, 2022-07-31 (Released:2022-07-31)
参考文献数
26

本研究では,人々の気候変動リスクに対する認知や態度,対策行動への取り組みについて現状を把握するとともに,今後対策行動を促進するための示唆を得るためにオンラインでの質問紙調査を実施した。調査結果から,73.8%が地球温暖化は主に人間の活動によると考えており,世代や国・地域を超えた課題であり,影響を防ぐための対策を行う必要があると考える傾向が強いことが示された。対策行動としては,省エネ(64.0%)や熱中症予防のための水分補給(57.5%)などの実施率が高い。対策行動を緩和策と適応策とに区別して実施数を比較すると,緩和策の方が実施されている行動数が多かった。人々の対策の実施数を規定している要因を重回帰分析で調べたところ,緩和策に対しては地球温暖化の影響実感,将来の影響予測,地球温暖化に対する懸念,多少のコストを払ってでも積極的に取り組むべきという姿勢が有意な効果を持っていた。適応策では影響実感と将来予測,地球温暖化に対する疑念や個人の対策行動の無力さの認知,問題の身近さの認知が有意な効果を持つことが示された。つまり,影響実感や将来の影響予測に働きかけることで,緩和策および適応策の対策行動が増える可能性が示唆されるとともに,緩和策は地球温暖化を自分が取り組むべき問題として認識する中で実施され,適応策はむしろ地球温暖化問題への対策としてではなく個別影響への対応として実施されている可能性が示された。
著者
木村 道徳 河瀬 玲奈 金 再奎 岩見 麻子 馬場 健司
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.213-226, 2022-07-31 (Released:2022-07-31)
参考文献数
29

本研究では,行政によるヒアリングやワークショップなどの質的調査を通じて蓄積されている,気候変動に対する影響の実感や不安に関するテキストデータを対象に,市民およびステークホルダーの影響認識を構造的に把握するための手法を検討するとともに,滋賀県を対象に実践を行った。気候変動適応策の推進には,市民と地域のステークホルダーの関与が重要であり,行政によるこれら主体の気候変動影響の認識の把握が必要になると考えられる。しかし,行政により蓄積が進められている気候変動影響の認識に関する情報は,自然言語で記述されているテキストデータが多く,これまで研究対象として分析が進められてはこなかった。本研究では,行政による質的調査を通じて,滋賀県内の市民および農林水産業,産業分野の主体から得られた気候変動影響の認識に関するテキストデータを対象に,テキストマイニング手法を適用した。その結果,「琵琶湖と自然生態系への影響」と「台風被害と獣害,水稲」,「降雨降雪の極端化による災害および森林と林業への影響」,「夏と冬における気温上昇の影響」,「季節の変化」の5つの話題を特定することができた。また,対象者属性とのクロス集計の結果,市民は幅広い分野に言及しているのに対して,農林水産業の主体は各分野の具体的な気候変動影響の因果連鎖についての情報を補完していた。各主体のテキストを組み合わせることで,地域で顕在化しつつある気候の変化とそれに伴う影響の因果連鎖を市民およびステークホルダーがどのように認識しているのか,詳細に把握することが可能になることがわかった。
著者
小杉 素子 馬場 健司 田中 充
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集G(環境) (ISSN:21856648)
巻号頁・発行日
vol.76, no.5, pp.I_167-I_176, 2020 (Released:2021-01-18)
参考文献数
19
被引用文献数
1

2017年と2020年のオンライン質問紙調査データを用いて,地球温暖化に対する態度の特徴により回答者を細分化し,人々の関心の程度や態度,対策行動の実施等についてどのような変化があるかを調べた.その結果,危機感が強く対策行動に積極的に取り組む人々(警戒派: 20%),関心が低く明確な意見を持たない人々(無関心派: 33%),懐疑的で対策の必要性を感じない人々(懐疑派: 6%),内容によらず質問全般に同意する傾向の強い人々(肯定派: 10%)は割合に増減があるが3年前と変わらず存在することが示された.他方,質問全般に否定的に回答する傾向の強い人々はまとまりとして抽出されず,警戒派と近い認知や態度を持つが対策行動を伴わない人々(用心派: 30%)が新しく抽出された.最大のボリュームである無関心派は依然として情報提供の重要な対象であると同時に,新しく出現した用心派は回答者の3割を占めており既に関心もリスク認知も高いことから,この人々に対して行動を促すアプローチの検討が重要と考えられる.
著者
土屋 依子 伊藤 史子 田頭 直人 池谷 知彦 馬場 健司
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.46-57, 2016-04-25 (Released:2016-04-25)
参考文献数
15
被引用文献数
1 3

本研究の目的は、電気自動車の地域別の普及可能性を明らかにすることである。まず、2011年1月に実施したアンケート調査により収集した自家用車の利用データにより、自家用車の利用実態と、それらを規定する要因を特定した。次に、関東圏を対象に作成した地域類型を用いて、地域類型別の自家用車利用の比較分析を行った。自家用車利用の規定要因では、自家用車の保有台数や年間走行距離、1日当たりの最長走行距離は、世帯・個人属性と居住地特性や車両属性などの影響をうけ、利用頻度は、長距離では年齢と鉄道の利便性、短距離では世帯属性よりも居住地特性・車両属性による影響をうけることがわかった。また、人口や住宅等の居住状況による「居住類型」を用いて、EVの走行可能距離や経済的な優位性、充電利便性の条件を総合的に分析した結果、EV適合車両の比率は、近郊外・外郊外と都心から外縁部にいくほど高まる傾向があることが明らかとなった。
著者
坂口 翔一 岡田 雅也 庄嶋 貴之 馬場 健司 宮沢 孝幸
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.70, no.8, pp.785-790, 2008-08-25
参考文献数
19
被引用文献数
2 32

すべてのネコはRD114ウイルスという感染性の内在性レトロウイルスをもっている。ネコの細胞を製造に用いた弱毒生ワクチンには、RD114ウイルスが迷入する可能性がある。ネコ用ワクチンにおけるRD114ウイルスの迷入を調べるために、今回我々はLacZ遺伝子をマーカーとしたマーカーレスキューアッセイを開発した。調べた4種類のヒト由来株化細胞(TE671細胞、HeLa細胞、293T細胞、HT1080細胞)のうち、TE671細胞(ヒト横紋筋肉腫由来細胞)がRD114ウイルスにもっとも感受性が高く、また同細胞においてウイルスが効率よく増殖した。RD114ウイルスの感染は、ウイルス吸着時にpolybreneを2μg/mlから8μg/ml添加することにより約5倍増大した。最大のウイルス力価を得るためのウイルス吸着時間は4時間で十分であった。LacZ遺伝子を導入したTE671細胞に階段希釈したRD114ウイルスを接種したところ、限界希釈したサンプル(すなわち10感染ユニット未満)において、ウイルス接種後12日後にLacZマーカーレスキューアッセイによりウイルスの検出ができた。今回得られた結果をもとに、感染性のRD114ウイルスを検出するLacZマーカーレスキューアッセイの標準法を提唱する。
著者
小杉 素子 馬場 健司 田中 充
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集G(環境) (ISSN:21856648)
巻号頁・発行日
vol.74, no.5, pp.I_41-I_52, 2018 (Released:2019-03-01)
参考文献数
30
被引用文献数
1

気候変動リスクに対する理解と対処行動を促進するための情報提供方策を検討するため,ターゲットの特徴の明確化とそのボリュームを把握することを目的として質問紙調査を行った.その結果,地球温暖化(気候変動)に関心が乏しく明確な意見を持たないクラスターが回答者の4割以上であること,リスク認知や不安感が高く施策に肯定的な態度を持つクラスターや,地球温暖化に対して懐疑的で対策の必要性を感じていないクラスターの存在を明らかにした.人数の多い無関心なクラスターへの対応が特に重要と考え,地球温暖化に対する理解や対処行動を促進するための情報内容について考察した。地球温暖化について異なる考えを持つ人々に対し,それぞれに適した情報提供活動を行うことで,理解の深まりや緩和・適応策への肯定的評価や協力が期待できるだろう.
著者
馬場 健司 鬼頭 未沙子 高津 宏明 松浦 正浩
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集G(環境) (ISSN:21856648)
巻号頁・発行日
vol.71, no.5, pp.I_235-I_246, 2015 (Released:2016-02-23)
参考文献数
15
被引用文献数
1

本研究では,インターネットを用いたオンライン実験により,木質バイオマスの利活用について,上流(供給)から下流(需要)までのステークホルダー34人が,3回の専門知の提供を受けながら2週間をかけて熟議を行った.得られた知見は以下のとおりである.1) 総論としての木質バイオマス利活用に対する賛否については,熟議を経て賛成が若干増加した.2) 今後の関与意向については,中間・需要側では,現在以上の負担や手間をかけてもよいという層と協力できないと回答した層に分かれ,供給側では,コストが増えることは許容できないが採算がとれるなら協力するという姿勢が増えている.3) 本実験の効果については,多数の参加者が意見をうまく表明できたと考え,自主的な情報収集や参加者間での相互作用が起きている.
著者
馬場 健司 木村 宰 鈴木 達治郎
出版者
社会技術研究会
雑誌
社会技術研究論文集 (ISSN:13490184)
巻号頁・発行日
no.3, pp.241-258, 2005
被引用文献数
3 3

近年急速に導入が進んでいる大規模風力発電所(ウィンドファーム)の立地に際して,しばしば環境論争が発生している.文献調査とヒアリング調査により,全国的な論争の推移とそのパターンを分析し,その中からプロセスと結果において対照的であった2つのケースを対象とした詳細な比較分析を行った結果,以下が明らかとなった.制度に基づく公式プロセスにおける課題設定は,制度そのものの性格,非公式プロセスで得た情報,当該課題の公共性・公益性の定義に影響されている.論争の主な要因は,環境影響評価法の対象外となっていること,地域の野鳥・野生生物の生態系に係わる情報や認識の不足である.今後の社会意思決定プロセスとしては,戦略的環境アセスメントによる中央と地方の相互補完的な多層レベルの制度化や,総論と各論というように段階的に論点を配分する参加型手法の適用などが考えられる.