著者
金 尚均
出版者
龍谷大学法学会
雑誌
龍谷法学 (ISSN:02864258)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.19-60, 2015-10
著者
金 尚均
出版者
西南学院大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

「環境保護刑法の研究」の二年目にあたる本年度は、現代社会における刑法の機能・機能化との関連から、また、企業の通常の生産活動から生じる環境汚染との関連から、環境保護のための刑法のあり方や可能性について検討した。科学技術の発展による文明生活の発展と近代化の過程において、未知の危険とこれが人に与える脅威の潜在的可能性が高まっている。ここで焦点を当てられる「危険」とは、個人的法益ないし社会的法益としての「危険」を越えて、社会問題としての、常在する危険のことである。これは、危険のグローバル化とか、危険の社会化とも呼ばれることがありますこれに対処するため、刑法を機能的に理解する見解が有力化している。その現れの一つとして、法益保護のために処罰段階の前段階化・早期化の傾向がある。危険犯、とりわけ抽象的危険犯が多用化されている。ドイツにおいて環境汚染に対して刑法をもって規制されているが、その効果や執行状況が思わしくないということは、衆目の一致するところである。この原因の一つとして、近代刑法の処罰客体が「個人」であったことにある。これに対して、企業による大規模な環境汚染については、実務上また理論上も根本的な対策が執られてこなかった。近年では、企業を一つの有機的なシステムとして捉え、これに対して刑事的に問責する主張が行われている。これに加えて、企業に対する刑罰的制裁として企業に対する後見制度が提唱されている。処罰段階の前段階化の問題と関連させながら、これらの試みが、環境保護にとって有効なのか、また従来の刑法理論に抵触することなく、理論構成することができるのかなどについて、できる限り早期にまとめていきたいと考えている。