著者
金丸 智美 無藤 隆
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.183-194, 2004-08-20 (Released:2017-07-24)

本研究の第1の目的は,母子葛藤場面における2歳児の情動調整プロセスを,子どもの不快情動変化として捉え,その個人差を検証することである。第2,第3の目的は,この個人差と,情動調整行動及び母子関係性,すなわち「情動の利用可能性」(emotional availability:以下EA)の葛藤場面前後の変化との関連性を検討することである。さらに第4の目的として,情動調整プロセスのタイプごとの母子相互作用の特徴を記述し,2歳児の情動調整の特徴を明らかにする。2歳前半の子どもとその母親41組を対象に,実験的観察を行った。その結果,不快情動変化タイプは,「継続型」・「沈静型」・「非表出型」に分類された。「継続型」の子どもは,不快情動の原因を除去する積極的な働きかけを行った。「非表出型」の子どもは,自ら気紛らわしや他の活動を行い,母親は子どもの自発性や能動性に寄り添っていた。「沈静型」の母親は子どもの不快情動を沈静するための積極的な働きかけを行い,sensitivityとstructuringが葛藤場面で高くなった。以上より,自律的な調整や,原因を除去しようとする能動性が可能になり始めるが,不快情動が沈静するには,母親の助けを必要とするという,自律性と他律性が混在する2歳児の情動調整の特徴が明らかになった。
著者
坂上 裕子 金丸 智美 武田(六角) 洋子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.368-378, 2016

<p>本研究では,幼児期前半における自己の発達の遅延を示唆する証左が近年提出されていることに鑑み,2歳代の自己の発達の一指標として従順行動,不従順行動を取り上げ,その経年変化を検討した。2004・2005年度(I期)の2歳児111名,2010・2011年度(II期)の2歳児95名を対象に,母子での自由遊び後の玩具の片付け場面における行動を観察し,分析を行った。その結果,片付けを要請したストレンジャーに対して拒否を示した子どもの割合は,I期よりもII期において低かった。また,母子での片付け場面では,II期の子どもの方が母親に対して従順な行動をより多く示し,反抗や拒否を示した子どもの割合は,I期よりもII期で低かった。これより,自己と他者の意図の違いを意識化し,自身の意志を明示するという点において,最近の幼児の自己の発達には遅延が生じている可能性があることが示唆された。子どもの従順行動,不従順行動の経年変化の背景には,自己の発達を支える子どもの他の行動面での変化や親の対応の変化,親子を取り巻く環境の急速な変化がある可能性を指摘し,考察を行った。</p>
著者
金丸 智美 無藤 隆
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.219-229, 2006-12-20
被引用文献数
4

本研究の第1の目的は,不快場面に置かれた3歳児を対象に,快,不快情動の変化から捉えた情動調整プロセスの個人差を明らかにすることである。第2に,同一の子どもについて2歳時点から3歳時点への情動調整プロセスの個人差の変化を示す。第3に,不快場面での情動調整行動を検討し,3歳児の情動調整の自律性を明らかにする。2歳前半に実験的観察を実施した母子41組の中で,3歳後半の時点で32組の母子を対象に実験的観察を実施した。その結果,情動調整プロセスの個人差について,不快情動から捉えた情動調整プロセスタイプの中に,快情動変化から捉えた個人差が存在することが明らかになった。情動調整プロセスの個人差の変化については,2歳時に不快情動を表出した多くの子どもが,3歳時には不快情動を表出しなくなることや,2歳時に快情動を表出しなかった子どもの多くは,3歳時には快情動を表出したことを示した。また,情動調整行動に関しては,他の活動を積極的に行ったり,気紛らわし的行動が増え,より自律的な行動が増えることを示した。以上より,3歳児は2歳児と比較して,より自律的で適応的な情動調整が可能となることを明らかにした。