著者
数井 みゆき 遠藤 利彦 田中 亜希子 坂上 裕子 菅沼 真樹
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.323-332, 2000-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
31
被引用文献数
5 20

本研究では現在の親の愛着とそれが子の愛着にどのように影響を及ぼしているのかという愛着の世代間伝達を日本人母子において検討することが目的である。50組の母親と幼児に対して, 母親には成人愛着面接 (AAI) から愛着表象を, 子どもには愛着Qセット法 (AQS) により愛着行動を測定した。その結果, 自律・安定型の母親の子どもは, その他の不安定型の母親の子どもよりも, 愛着安定性が高いことと, 相互作用や情動制御において, ポジティブな傾向が高いことがわかった。また特に, 未解決型の母親の子は, 他のどのタイプの母親の子よりも安定性得点が低いだけでなく, 相互作用上でも情動制御上でも, 行動の整合性や組織化の程度が低く混乱した様子が, 家庭における日常的状況において観察された。ただし, 愛着軽視型ととらわれ型の母親の子どもは, 安定型と未解決型の母親の子どもらの中間に位置する以外, この両者間での差異は認められなかった。愛着の世代間伝達が非欧米圏において, 実証的に検証されたことは初めてであり本研究の意義は大きいだろう。しかし, さらなる問題点として, AAIやAQSの測定法としての課題と母子関係以外における社会文化的文脈の愛着形成への影響という課題の検討も今後必要であろう。
著者
坂上 裕子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.411-420, 1999-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
26
被引用文献数
6 4

本研究では, 人格特性と認知との関連を検討するため, 大学生169名を対象に, 個人の感情特性と図版刺激における感情情報の解釈との関連について調べた。感情特性の指標として, 5つの個別感情(喜び, 興味, 悲しみ, 怒り, 恐れ) の日常の経験頻度を尋ねた。また, 感情解釈の実験を行う直前に, 被験者の感情状態を測定した。感情解釈の課題としては, 被験者に, 人物の描かれた曖昧な図版を複数枚呈示し, 各図版について, 状況の解釈を求めた上で登場人物の感情状態を評定するよう求めた。両者の関連を調べたところ, 喜びを除く全ての感情特性と, それぞれに対応した感情の解釈との間に, 正の相関が認められた。すなわち, 被験者は, 自分が日頃多く経験する感情を図版の中にも読みとっていた。また, 特定の感情 (悲しみと怒り, 恐れと悲しみ, 恐れと怒り) については, 感情特性と感情解釈との間に相互に関連が認められた。感情特性と感情解釈の相関は, 感情状態の影響を取り除いてもなお認められたことより, 感情特性は, 感情状態とは独立に個別の感情に関する認知と関連を持っていることが示唆された。
著者
数井 みゆき 遠藤 利彦 田中 亜希子 坂上 裕子 菅沼 真樹
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.323-332, 2000-09-30
被引用文献数
4

本研究では現在の親の愛着とそれが子の愛着にどのように影響を及ぼしているのかという愛着の世代間伝達を日本人母子において検討することが目的である。50組の母親と幼児に対して, 母親には成人愛着面接(AAI)から愛着表象を, 子どもには愛着Qセット法(AQS)により愛着行動を測定した。その結果, 自律・安定型の母親の子どもは, その他の不安定型の母親の子どもよりも, 愛着安定性が高いことと, 相互作用や情動制御において, ポジティブな傾向が高いことがわかった。また特に, 未解決型の母親の子は, 他のどのタイプの母親の子よりも安定性得点が低いだけでなく, 相互作用上でも情動制御上でも行動の整合性や組織化の程度が低く混乱した様子が, 家庭における日常的状況において観察された。ただし, 愛着軽視型ととらわれ型の母親の子どもは, 安定型と未解決型の母親の子どもらの中間に位置する以外, この両者間での差異は認められなかった。愛着の世代間伝達が非欧米圏において, 実証的に検証されたことは初めてであり本研究の意義は大きいだろう。しかし, さらなる問題点として, AAIやAQSの測定法としての課題と母子関係以外における社会文化的文脈の愛着形成への影響という課題の検討も今後必要であろう。
著者
坂上 裕子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.411-420, 1999-12-30
被引用文献数
4 3

本研究では,人格特性と認知との関連を検討するため,大学生169名を対象に,個人の感情特性と図版刺激における感情情報の解釈との関連について調べた。感情特性の指標として,5つの個別感情(喜び,興味,悲しみ,怒り,恐れ)の日常の経験頻度を尋ねた。また,感情解釈の実験を行う直前に,被験者の感情状態を測定した。感情解釈の課題としては,被験者に,人物の描かれた曖昧な図版を複数枚呈示し,各図版について,状況の解釈を求めた上で登場人物の感情状態を評定するよう求めた。両者の関連を調べたところ,喜びを除く全ての感情特性と,それぞれに対応した感情の解釈との間に,正の相関が認められた。すなわち,被験者は,自分が日頃多く経験する感情を図版の中にも読みとっていた。また,特定の感情(悲しみと怒り,恐れと悲しみ,恐れと怒り)については,感情特性と感情解釈との間に相互に関連が認められた。感情特性と感情解釈の相関は,感情状態の影響を取り除いてもなお認められたことより,感情特性は,感情状態とは独立に個別の感情に関する認知と関連を持っていることが示唆された。
著者
坂上 裕子 菅沼 真樹
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.156-166, 2001-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
30
被引用文献数
2 2

大学生を対象に, 対人様式としての愛着と情動制御との関連を検討した。情動制御の一側面として, 本研究では意識レベルでの情動情報の処理に着目した。まず研究1で,「個別情動に対する意識的態度尺度」を作成した。これは, 代表的な4情動 (怒り, 悲しみ, 恐れ, 喜び) に対して, 個人が意識の上でどのような態度や備えを有しているかを測る尺度であり, 4つの下位尺度 (内省傾向, 自己の情動の覚知, 他者の情動の覚知, 情動に対する不快感) から構成された。次に研究2で, 大学生208名に, 愛着に関する尺度(戸田, 1988)と個別情動に対する意識的態度尺度への回答を求め, 両尺度の関連を検討した。その結果, 両者には弱いながらも関連が認められた。すなわち, 愛着の安定性の高い人は, 自他の悲しみや喜びに対する内省や覚知が高く, 回避性の高い人は, 悲しみや喜びに対する不快感が高い傾向があった。また, 両価性の高い人は, 自他の怒り, 喜びの覚知が低い傾向があった。以上より, 各愛着特性は, 特定の情動に対する意識の上での異なる態度や構えと関連しており, それらの態度や構えが, 各愛着スタイルを維持するように働いているのではないかと考察された。
著者
坂上 裕子 金丸 智美 武田(六角) 洋子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.368-378, 2016

<p>本研究では,幼児期前半における自己の発達の遅延を示唆する証左が近年提出されていることに鑑み,2歳代の自己の発達の一指標として従順行動,不従順行動を取り上げ,その経年変化を検討した。2004・2005年度(I期)の2歳児111名,2010・2011年度(II期)の2歳児95名を対象に,母子での自由遊び後の玩具の片付け場面における行動を観察し,分析を行った。その結果,片付けを要請したストレンジャーに対して拒否を示した子どもの割合は,I期よりもII期において低かった。また,母子での片付け場面では,II期の子どもの方が母親に対して従順な行動をより多く示し,反抗や拒否を示した子どもの割合は,I期よりもII期で低かった。これより,自己と他者の意図の違いを意識化し,自身の意志を明示するという点において,最近の幼児の自己の発達には遅延が生じている可能性があることが示唆された。子どもの従順行動,不従順行動の経年変化の背景には,自己の発達を支える子どもの他の行動面での変化や親の対応の変化,親子を取り巻く環境の急速な変化がある可能性を指摘し,考察を行った。</p>