著者
荒牧 美佐子 無藤 隆
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.87-97, 2008-08-10 (Released:2017-07-27)
被引用文献数
3

本研究の目的は,末就学児を持つ母親の抱く育児への否定的・肯定的感情とその関連要因について明らかにすることである。子どもを首都圏の幼稚園・保育所に通わせる母親に質間紙調査を行い,有効であった733名の回答に基づいて分析を行った。育児への否定的・肯定的感情に関する項目として,住田・中田(1999)の尺度を用い,確認的因子分析を行った結果,育児への「負担感」「育て方/育ちへの不安感」「肯定感」とに分かれることが確認された。そして,各々の関連要因について分析を行った結果,主に以下のことが明らかになった:(1)「負担感」は,末子の年齢が高いほど高く,夫や園の先生・友人らのサポートが多いほど低い。また,幼稚園群の方が保育所群よりも,専業主婦の方が有識者よりも高い傾向が見られる。(2)「育ちへの不安感」は男児を持つ母親で高い傾向にあり,「育て方への不安感」は夫からのサポートが多いほど低い。「育て方/育ちへの不安感]ともに情報サポートが多いほど高い。(3)「肯定感」は,夫や園の先生・友人らのサポートが多いほど高い。以上,「負担感」「育て方/育ちへの不安感」「肯定感」の関連要因は一部重複しつつも,それぞれに違いがあることが確認された。
著者
狩野 かおり 無藤 隆
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
お茶の水女子大学子ども発達教育研究センター紀要
巻号頁・発行日
vol.1, pp.19-31, 2004
被引用文献数
2

本研究の目的は、地域の子育てサークルとインターネット上における育児期の親同士のネットワークがサポートを提供する場としてそれぞれどのように機能しているのかを比較検討することであった。そのために、地域の子育てサークルに所属する親メンバー307名とインターネット上の育児関連サイト内のネット掲示板を定期的に利用している親217名を対象として、親子の属性やネットワークの利用動機、現在の身近なサポート環境および親や個としての心理的健康、そして利用しているネットワーク形態がもっていると思われるサポート機能について尋ねる質問紙およびオンライン調査を行った。その結果、地域の子育てサークルとインターネット上の育児掲示板という二つのネットワーク形態を比較した時に、育児サークルの方は、子育てをある程度経験した親が既存のネットワークを広げる目的で参加し、コミュニティ的な支え合いや、親子同士の交流を通じた親や個人として視野の広がりを経験する機会を提供する場として特徴付けられるのに対して、インターネット上の育児掲示板は、育児経験の浅い親が育児情報を手に入れたりよその親の子育ての様子を知りたいというニーズを満たすために利用し、親としての自分を客観的に見つめ直し育児にゆとりを持つ機会が得られる場として捉えられていることが示唆され、当初の仮説がほぼ支持される結果となった。
著者
数井 みゆき 無藤 隆 園田 菜摘
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.31-40, 1996-08-01 (Released:2017-07-20)
被引用文献数
9

本研究の目的は, 子どもの発達を家族システム的に検討することである。家族システムの3変数として, 子どもの愛着, 母親の認知する夫婦関係, 母親の育児ストレスをとりあげている。対象者は, 48組の母子で, 子どもの平均年齢は3.4歳であった。子の愛着の安定性には, 夫婦関係の調和性と親役割からのストレスとが関連していた。特にこの2つの変数の交互作用の要因が有意で, 親役割からのストレスが高くかつ夫婦関係が調和的でないときに, その子の愛着がもっとも不安定に予測された。また, 社会的サポートは親役割ストレスを低くする方向で関連していた。さらに, 家族関係の機能度という視点より, 柔軟性が適度に保たれている家族は, 家族システム的にも良好であった。母親の心理的状態や子どもへの行動・態度は, 夫との関係のありようと密接に関連しているという結果であり, 子どもの心理的状態を研究する上で母親ばかりではなく父親(夫)との相互作用・関係を考慮にいれなければならないことを示唆した。
著者
角谷 詩織 無藤 隆
出版者
上越教育大学
雑誌
上越教育大学研究紀要 (ISSN:09158162)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.101-112, 2010-02-28

本研究では、テレビ番組の種類として、特に、日本民間放送連盟から放送モラルについての要請が出された経緯をもつ、ドラマ、お笑いのバラエティ、トーク番組、歌・音楽番組の視聴が、子どもの社会的・心理的不適応を高めるのかについて検討する。首都圏40km圏内から無作為抽出された、第一回調査時の小学5年生1,006名を対象とし、2001年2月〜2004年2月の間、毎年1回の縦断的調査を実施した。テレビ要因の他に、子どものメディア所持、テレビゲーム、スポーツや勉強の得意不得意、担任教師との信頼関係、生活習慣、学校の楽しさといった、子どもの社会的・心理的適応に重要な影響力をもつとされている要因を含めた分析を行った。縦断的因果関係を検討するに当たり、小学5年生から小学6年生、中学1,2年生へ、小学6年生から中学1,2年生、中学1年生から中学2年生への縦断的偏相関係を求めた。分析の結果、長期的に子どもの社会的・心理的不適応を高める要因が見出された。児童期後期におけるドラマ、お笑いのバラエティ、トーク番組、歌・音楽番組の視聴は、特に中学生になってからのルール違反傾向や不安傾向を高める要因として機能する可能性が示唆された。「よく見る番組」の要因は、小学5年生から中学2年生にかけて、社会的・心理的不適応状態に比較的安定した影響力を示したことから、その影響が無視できないものであることが推測された。
著者
秋田 喜代美 無藤 隆
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.462-469, 1993-12-30
被引用文献数
1 3

The purpose of this study was to clarify developmental changes of the conceptions (evaluations and meanings) and feelings about book-reading, and to examine relations between conceptions, feelings and behavior frequency. Five hundred and six children of 3rd, 5th, and 8th grades answered the questionnaire about reading. Three major findings were as follows. First, all children shared the same evaluation that reading was a good activity. Second, three meanings of reading were identified: an exogenous meaning of "getting praise and good grades" (PRAISE), a cognitive endogenous meaning of "having a fantasy world and getting knowledge" (FANTASY), and a physiological endogenous meaning of "refreshing and killing time" (REFRESHING). Older children evaluated the cognitive endogenous meaning of FANTASY more and the exogenous meaning of PRAISE less. Third, positive feelings were predicted from 3 variables: grade, evaluation and FANTASY meaning. Behavior frequency was predicted from 3 variables: grade, positive feelings and the REFRESHING meaning.
著者
小保方 晶子 無藤 隆
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
お茶の水女子大学子ども発達教育研究センター紀要
巻号頁・発行日
vol.1, pp.89-95, 2004

中学生の非行傾向行為の実態と変化を明らかにするために、1学期に2397名、2学期に2347名に質問紙調査を行い、非行傾向行為について性別、学年、学期による検討を行った。その結果、次のことが明らかになった。非行傾向行為の特徴として、「病気などの理由がないのに学校をさぼる」行為は女子に多いこと、非行傾向行為は、1年生より2年生の方が、多く増加していること、1学期より2学期の方が増加しており、学年だけでなく夏休みを挟んだ学期によって変化していることが明らかになった。夏休みが変化の機会になっており、中学生の非行傾向行為は夏休みの過ごし方などが大きく影響していることが示唆された。全体的な傾向としては、2年生の2学期が最も増加し、その後3年生になると減少するという変化が明らかになった。3年生では受験があることによって減少していることが示唆された。
著者
磯村 陸子 大谷裕子 新垣 紀子 野島 久雄 無藤 隆
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告ヒューマンコンピュータインタラクション(HCI) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2000, no.39, pp.37-44, 2000-05-12
参考文献数
8

インターネットを日常的に利用している43名の既婚女性を対象に、インターネット利用に関する一週間の日誌調査を実施した。調査では、インターネット上の活動だけでなく日常生活の人間関係やコミュニケーション全体を対象とし、またネット利用に関する事実だけでなく、ネットコミュニケーションを通じて彼女たちが何を感じているのかについても検討した。その結果、既婚女性というユーザー層の属性や生活背景を反映したネット利用の形態として、ネットの内と外とが断絶した利用の形態ではなく、家庭との両立や日常生活との連続性を保った形での利用を行っているという連続性仮説が支持された。また、このような利用実態に関わるネット利用と心理的要因との関連も見出された。Authors conducted a research on daily Internet use by married women, Forty-three married women using Internet were asked to keep diaries on their Internet use for one week. The diaries were also designed to include information on face-to-face and telephone communication other than on-line communication such as electronic mails. Detailed analysis of the diaries suggests that the Internet use by the subjects is characterized as follows: 1) continuity or commonality between on-line and off-line communication, 2) priority of family life over the Internet use. No significant relationships were found between degree of the Internet use and negative psychological variables among these users,
著者
久保 ゆかり 無藤 隆
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.296-305, 1984-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
14
被引用文献数
3

Understanding empathetically how another person feels is defined here as the making of his/her “psychological world” being i nfluenced by his/her affect. It is also assuming an inclusion predicting his/her behavior, sympathizing with him/her, and imaging an effective way of interaction with him/ her.The purposes of this study are (1) to test the hypothesis that recalling one's own experience as similar to another person's in terms of its events and internal responses facilitating an empathic understanding of how he/she feels, and (2) if recalling similar experiences facilitate in fact the empathic understanding, to examine what kind of components are cansing such an effect; one component may be arousing the same valent (positive or negative) emotion, while another retrieving similar concrete individual episodes.To accomplish these purposes, we set up three conditions: first, Gr. S, subjects were asked to remember their own experiences similar to another person's emotional experience in terms of its and internal responses; second, Gr. E, subjects were asked to remember their own experiences that were not similar to another person's in its events and internal responses, but that aroused the same valent emotion. In the third condition, Gr. G, subjects were not instructed to remember any experiences, but they were taught how to grasp gists of a story. After receiving manipulations, subjects had to Iisten to the story of a child having lost his/her littlebird1; then, subjects had to answer a questionnalre.In the first experiment, 74 third graders (40 boys and 34 girls) were divided into three groups homogeneous by made according to their intellectual ability by their teachers. Each group received manipulations collectively. The empathic understanding score of Gr. S was significantly higher than that of Gr. E and Gr. G. This result confirmed the hypothesis; still, which component caused the effect conld not be examined, because a considerable number of subjects in Gr. E and Gr. G spontaneously remembered similar experiences.In the second experiment, 77 third graders (38 boys and 39 girls) were divided into three homogeneous groups on the basis of vocabulary test scores and reading ability scores rated by teachers. They received more stringent manipulations in small groups consisting of five to seven subjects. As a result, the rates of subjects in Gr. E and Gr. G who spontaneously remembered similar experiences showed a decrease of about 30 per cent. The empathic understanding score of Gr. S was significantly higher than that of Gr. E and Gr. G. The result of the first experiment was confirmed. When Gr. S were compared with modified Gr. E and Gr. G where subjects who spontaneously remembered similar experiences were excluded, the empathic understanding of Gr. S scored the highest of all three groups while that of modified Gr. E proved significantly higher than that of Gr. G.Overall results confirmed the hypothesis that recalling experiences similar to another person's facilitates the empathic understanding of how he/ she feels. Moreover such results suggest that the effect of recalling similar experiences is caused not only by an arousing of the same valent emotion but also by retrieving similar concrete and individual episodes.
著者
横山 真貴子 秋田 喜代美 無藤 隆 安見 克夫
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.95-107, 1998-07-30 (Released:2017-07-20)
被引用文献数
2

本研究では, 保育の中に埋め込まれた読み書き活動として, 幼稚園で行われる「手紙を書く」活動を取り上げ, 1幼稚園で園児らが7カ月問に書いた手紙1082通を収集し, コミュニケーション手段という観点から手紙の形式と内容を分析した。具体的には「誰にどのような内容の手紙を書き, 書かれた手紙はどのようにやりとりされているのか」について, 収集した手紙全体の分析(分析1)と手紙をよく書く幼児とあまり書かない幼児の手紙の分析(分析2)から, 全体的発達傾向と個人差を検討した。主な結果は次の通りである。第一に, 幼児は主に園の友達に宛てた手紙を書いており, 手紙の大半には, やりとりに不可欠な宛名と差出人が明記されていた。このことから, 幼児は園での手紙の形式的特徴を理解していることが示された。第二に, 全体的には絵のみの手紙が多く, コミュニケーションを図ることよりも, 幼児はまず手紙を書き送るという行為自体に動機づけられて手紙を書き, 「特定の誰かに自分が描いた作品を送るもの」として手紙を捉えていることが示唆された。特にこの傾向は年中児で頭著であった。だが第三に, 年長児になると相手とのやりとりを期待する伝達や質問等の内容が書かれ始め, 手紙を書くことの捉え方が発達的に変化することが示された。また第四に, 手紙を書くことに興味を持つ時期が子どもによって異なり, 手紙が書ける園環境が常時準備されていることの有益性が指摘された。
著者
石毛 みどり 無藤 隆
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.266-280, 2006 (Released:2006-08-30)
参考文献数
51
被引用文献数
8 8

レジリエンスは困難な出来事を経験しても個人を精神的健康へと導く心理的特性である.中学生905名を対象に,レジリエンスとCloningerの7次元モデルの特性との関連,およびそれらの関連の性差を検討した.その結果,レジリエンス尺度は「意欲的活動性」「内面共有性」「楽観性」の3因子構造だった.男子の場合,「意欲的活動性」と「自己志向」および「協調」とが,そして「内面共有性」と「協調」とが有意な正の関連を示した.女子の場合,「意欲的活動性」と「自己志向」,「内面共有性」と「報酬依存」とが有意な正の関連を,「楽観性」と「損害回避」とが有意な負の関連を示した.
著者
小保方 晶子 無藤 隆
出版者
The Japanese Psychological Association
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
vol.77, no.5, pp.424-432, 2006
被引用文献数
5

This study examined the characteristics typically seen before the start of delinquency. Questionnaire surveys were administered twice to 1524 junior high school students, in the first and again in the second school term. Students were classified into three groups according to the time when they started engaging in delinquent behavior: "experienced" (having engaged in delinquency before the first survey: <i>N</i>=304), "started" (reporting their start of delinquency after the first survey: <i>N</i>=157), and "no experience" (having no experience of delinquency: <i>N</i>=1063). Comparisons of the three groups showed that the "started" group shared the same characteristic factors with the "experienced" group. Compared with the "no experience" group, both delinquency groups reported a less intimate relationship with their parents, more experience of domestic abuse, less parental control, and more conforming behavior with their friends. Also, the "started" group showed a sharp change in their degree of enjoyment of school life. Although the "started" group reported the same level of school life before starting delinquency as the "no experience" group, they reported a lower degree of enjoyment, nearly equal with that of the "experienced" group, after starting delinquency.
著者
井上 美智子 無藤 隆
出版者
近畿福祉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

東京都・兵庫県の保育所・幼稚園1600園を対象とした質問紙調査を実施し、分析を進めた。その結果、園庭や地域の環境の実態にかかわらず、保育者が意図的に自然との関わりを活動の中に含まれるよう環境や活動を考えていることがわかった。しかし、そこで見られる活動内容や環境設定は従来の自然との関わりと大差はなく、自然の循環性や多様性を意識した内容などはまだあまり検討されていないことが明らかになった。また、幼保・公私のカテゴリー別にみてみると、多くの点で公立幼稚園の実態が高く評価できた。今後、自然体験プログラム等のノウハウが蓄積すれば、保育現場が受け入れる余地は十分にあると考えられ、期待が持てた。環境教育実践施設キープ自然学校における幼児対象自然キャンプでは、3年間の継続実施の過程で、幼児対象のプログラムは原則的にフリープログラムが有効であることが確認できた。しかし、そこには保育者、あるいは、関係する大人のかかわり方が重要であり、子ども観・保育観を共有しながら、子どもが自主的に遊びを創出していく過程を援助する役割に徹する必要性が確認できた。また、子どもが森の中で活動する内容には単に自然体験だけの枠に留まらない多様な経験があり、子どもの総合的な発達の全ての部分に関わる場を提供していると考えられた。その上に、自然の中ではそこでしかできない体験も含まれることから、自然との関わりが発達に寄与するものが再確認できたといえる。今後は、保育者に向けてこれらの活動の意義を啓発していく必要が感じられた。最終年度には、同様の活動をしている他団体と、保育現場の教員を交えてまとめの研究会を実施した.各実践者とも自然との関わりの価値を認めそこに子どもの多様な育ちの場認めているが、それを言語化していくこと、また、親にどう向き合っていくかが課題であると確認できた。
著者
無藤 隆
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.393-400, 2003-09-30 (Released:2007-12-27)
参考文献数
13
被引用文献数
1

本論では,幼稚園・保育所(以下,「幼稚園」と総称する)における実践と,保育・幼児教育(以下,「保育」と総称する)の研究を巡って,その特質と現状を整理したい.ただし,第一に,日本の保育のあり方に即すること,第二に,その保育の実態と改善に資するということ,第三に,保育の研究の詳細ではなく,日本の保育を律しているであろう「原則」の抽出を目指すことを行いたい.
著者
金丸 智美 無藤 隆
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.183-194, 2004-08-20 (Released:2017-07-24)

本研究の第1の目的は,母子葛藤場面における2歳児の情動調整プロセスを,子どもの不快情動変化として捉え,その個人差を検証することである。第2,第3の目的は,この個人差と,情動調整行動及び母子関係性,すなわち「情動の利用可能性」(emotional availability:以下EA)の葛藤場面前後の変化との関連性を検討することである。さらに第4の目的として,情動調整プロセスのタイプごとの母子相互作用の特徴を記述し,2歳児の情動調整の特徴を明らかにする。2歳前半の子どもとその母親41組を対象に,実験的観察を行った。その結果,不快情動変化タイプは,「継続型」・「沈静型」・「非表出型」に分類された。「継続型」の子どもは,不快情動の原因を除去する積極的な働きかけを行った。「非表出型」の子どもは,自ら気紛らわしや他の活動を行い,母親は子どもの自発性や能動性に寄り添っていた。「沈静型」の母親は子どもの不快情動を沈静するための積極的な働きかけを行い,sensitivityとstructuringが葛藤場面で高くなった。以上より,自律的な調整や,原因を除去しようとする能動性が可能になり始めるが,不快情動が沈静するには,母親の助けを必要とするという,自律性と他律性が混在する2歳児の情動調整の特徴が明らかになった。
著者
無藤 隆
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.407-416, 2013 (Released:2015-12-20)
参考文献数
38
被引用文献数
3

本論文は,発達心理学が実践現場に役立つ可能性を,保育を例として検討する。特に,その問題を,研究が実践にどう役立つのかというより大きな問題の一部としてとらえる。発達心理学を含めた研究の進展が,実践と研究の関連を変えてきている。その中で,エビデンスベーストのアプローチがその新たな関連を作り出した。また,実践研究の積み上げを工夫する必要がある。実践を対象とする研究として,実践者自身によるものと,実践者と研究者の協働によるアクションリサーチ,そして研究者が実践を観察し分析するものが分けられた。さらに,関連する研究として,子ども研究全般,カリキュラムや指導法に示唆を与える研究,社会的問題に取り組む研究,エビデンスを提供する研究,理論枠組みを変える基礎研究,政策へ示唆を与える研究などに分けて,各々の特質を検討した。実践現場から研究を立ち上げることが重要だと指摘した。最後に,研究的実践者と実践的研究者の育成を目指すことが提言された。