- 著者
-
金井 勇人
- 出版者
- 公益社団法人 日本語教育学会
- 雑誌
- 日本語教育 (ISSN:03894037)
- 巻号頁・発行日
- vol.179, pp.16-30, 2021-08-25 (Released:2023-08-26)
- 参考文献数
- 15
話し手が「あのレストラン,おいしかったね」と聞き手に言うとき,「レストラン」は両者の共同の経験・文脈において認知された対象である。こうした性質を持つ指示対象を《共同的共有知識》と呼ぶことにする。しかしア系の指示詞は,作文などの《共同的共有知識》が成立しない環境においても用いられる。その場合の《非-共同的共有知識》を指すア系は,学習者にとって習得が難しい。そこで本稿では日本語母語話者の日本語作文を例に,その文法的な性質について分析を行った。その結果,①真の共有知識を指す,②疑似的な共有知識を指す,③対象自体を推論させる,④対象の程度を推論させる,という4つのタイプがあることを見出した。これらは読み手との共感を喚起し,書き手の思い入れを顕示する。続いて上記の分析結果に基づいて,中韓母語話者の日本語作文を例に《非-共同的共有知識》を指すア系の誤用を分析し,日本語教育における扱いについて考察した。