著者
河 正一 金井 勇人
出版者
埼玉大学日本語教育センター
雑誌
埼玉大学日本語教育センター紀要 (ISSN:21875871)
巻号頁・発行日
no.11, pp.15-27, 2017

本稿では、言葉の変化の過程として現れる敬語表現に焦点を当てて、二重敬語(敬語連結)、敬称、マニュアル敬語、謙譲語、不均衡な表現、さ入れ言葉、(さ)せていただく、慇懃な表現について、それらの表現における規範性と印象を調査した。そして、二つの要因の調査に基づき、敬語表現の変化の段階や揺れの原因とは何かについて、分析を試みた。
著者
金井 勇人
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.179, pp.16-30, 2021-08-25 (Released:2023-08-26)
参考文献数
15

話し手が「あのレストラン,おいしかったね」と聞き手に言うとき,「レストラン」は両者の共同の経験・文脈において認知された対象である。こうした性質を持つ指示対象を《共同的共有知識》と呼ぶことにする。しかしア系の指示詞は,作文などの《共同的共有知識》が成立しない環境においても用いられる。その場合の《非-共同的共有知識》を指すア系は,学習者にとって習得が難しい。そこで本稿では日本語母語話者の日本語作文を例に,その文法的な性質について分析を行った。その結果,①真の共有知識を指す,②疑似的な共有知識を指す,③対象自体を推論させる,④対象の程度を推論させる,という4つのタイプがあることを見出した。これらは読み手との共感を喚起し,書き手の思い入れを顕示する。続いて上記の分析結果に基づいて,中韓母語話者の日本語作文を例に《非-共同的共有知識》を指すア系の誤用を分析し,日本語教育における扱いについて考察した。
著者
金井 勇人 河 正一
出版者
埼玉大学日本語教育センター
雑誌
埼玉大学日本語教育センター紀要 (ISSN:21875871)
巻号頁・発行日
no.10, pp.37-45, 2016-03

本稿は、書き言葉(作文)に現れるア系の指示語について、日本語母語話者による韓国語作文と、韓国語母語話者による日本語作文を資料として、その特徴を分析するものである。ア系の指示語は話し手と聞き手との共有情報をマークするので、基本的には書き言葉には現れない。それは書き手と読み手とが(作文執筆以前から)情報を共有しているということが、原理的にはあり得ないからである。しかし、実際に書かれた作文を調査すると、数は多くないものの、作文においてもア系が現れることが分かる。本稿の分析によると、このタイプのア系は「擬似的な共有知識」を指すものである。また韓国語では基本的に、日本語のソ系(前方照応)とア系(記憶指示)の区別がなく、どちらにも그系が対応する。そのため韓国語母語話者にとっては、「擬似的な共有知識」を前方照応と区別することが難しく、適切な箇所で「擬似的な共有知識」を指すア系を使えない傾向が強い、ということが分かった。
著者
金井 勇人
出版者
埼玉大学国際交流センター
雑誌
国際交流センター紀要 (ISSN:18816479)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.15-24, 2009-03

話し手が、他人の談話を引用してそこに登場する自分自身を表現するとき、指示語を使用することがある。そのとき、どのような指示語を選択するだろうか。このような興味を抱いたのが、本稿の執筆の動機である。本稿では、「-いつ」系の指示語(こいつ、そいつ、あいつ)を取り上げて考察を行う。これらの指示語は、引用した他人の談話内で、どのように選択されるのだろうか。結論を述べると、引用された談話内では、自身を指すのに「こいつ」「あいつ」が専ら用いられる。一方、「そいつ」は用いられない。これは、コソアの(非)直示性に関わっていると考えられる。また、「こいつ」と「あいつ」では、話し手の伝えたいニュアンスが異なる。