- 著者
-
金井 守
- 出版者
- 田園調布学園大学
- 雑誌
- 田園調布学園大学紀要 (ISSN:13477773)
- 巻号頁・発行日
- vol.2, pp.41-57, 2007
2000年4月の介護保険制度の施行,同年の社会福祉法の成立により,介護及び福祉領域におけるサービスが利用者の選択により利用される仕組みへと変更された。このことは,従来の措置制度における行政処分から権利としてのサービス利用,契約によるサービス利用へと転換するまさにパラダイムの転換による制度変革であった。これにより,サービス提供事業者は,利用者と相対して契約を交わし,契約に基づいてサービスを提供することとなり,そのことは一方では,サービスの市場における競争を喚起しサービスの質を向上させ,利用者から選ばれる事業者となる必要性を生じさせた。従来,介護保険制度における各サービスの運営基準や社会福祉法によって利用者の保護のために規定された諸規制が,事業者の立場からは,利用者保護の必要性を理解しつつも事業者の契約行為に対する制限と受け取られ,契約に対する消極的イメージを払拭できない状況があった。従って本研究では,サービスの質を高める契約のあり方について論じるため,まず措置から契約への制度転換の歴史的経緯とその意義を確認すると共に,民法上における契約の意味を明らかにする。そして,それらを通して,介護サービス利用契約が一般の契約と異なる特徴を整理し,利用者保護の必要性を論じる。次に,既に実施された介護契約に関する調査,介護支援専門員の業務に関する実態調査等の結果を踏まえ,その他の文献から得られた契約とサービスの質に関する視点等から,事業者の契約をめぐる体制,契約締結過程,契約履行過程,契約更新過程等についてその実態や問題点を整理し,契約の概念や理論を概観する。その上で,サービスの質を高める契約の姿・方向性について考察を加え,事業者が契約を媒介し活用して,サービスの質を高める取り組みを行うことができる可能性とその条件を検討する。