著者
大谷 修
出版者
学校法人 敬心学園 職業教育研究開発センター
雑誌
敬心・研究ジャーナル (ISSN:24326240)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.1-7, 2019 (Released:2019-07-16)
参考文献数
26

消毒や漂白のために用いられる塩素系製剤はしばしば健康被害をもたらす。塩素系製剤である次亜塩素酸ナトリウム(ハイター)は水溶液中で加水分解して次亜塩素酸を生じる。この次亜塩素酸が殺菌効果を発揮する。 次亜塩素酸は排水管などの金属を腐食させる。次亜塩素酸ナトリウムはトイレ掃除に使う塩酸や酸性洗剤と反応して有毒な塩素ガスを生じる。塩素ガスを吸引すると、肺水腫などの重篤な呼吸器障害を生じる。レジオネラ感染を予防する目的で温泉水に次亜塩素酸ナトリウムを加えても窒素化合物と反応してクロラミンを生じるので殺菌効果が小さい。塩素処理したスイミングプールにおいても喘息等を発症するリスクが高まり、アレルギー疾患を増悪する。急性胃腸炎を起こすノロウイルス感染を防ぐには、牡蠣などの生食を避けること、感染者に調理や給仕をさせないこと、およびトイレ、ドアノブ、手すり、壁面スイッチなどを適切な濃度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を含んだペーパータオルで拭くことが重要である。吐物や便は、まず拭き取ってから、床面を次亜塩 素酸ナトリウム水溶液を含んだペーパータオルで拭く。次亜塩素酸ナトリウム水溶液をスプレー等で噴射するのは次亜塩素酸を含んだエアロゾルを吸引するので健康被害をもたらす恐れがあり危険である。感染防止で最も重要なのは手指衛生を保つことである。ノロウイルスはアルコール抵抗性を示すので、頻回に石鹸と流水で少なくとも20秒間手を洗うことが重要である。
著者
鈴木 健一
出版者
学校法人 敬心学園 職業教育研究開発センター
雑誌
敬心・研究ジャーナル (ISSN:24326240)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.115-127, 2021 (Released:2022-01-13)
参考文献数
53

人々の心のケアを担う心理臨床家は、人々と同様に様々なストレスにさらされている。特に「二次的外傷性ストレス」は大きなリスクであり、十分注意を払わねばならない。しかし、そのリスクについてはあまり周知されていないばかりか、心理臨床家としてのあるべき姿によって、自らの心身を保つセルフケアが重視されていないことが懸念される。本稿はこのような心理臨床家の負担となっている疲労やストレス、それらに対して有用な方法に関する文献を概観する。そして、臨床上のストレス、臨床家としての研鑽活動、それらが私生活に与える影響によって負担となることについて考察する。心理臨床家の間で経験的におこなわれてきた「仲間に話す」ということが孤立を防ぐという観点でも有効なセルフケアとして機能していると考えられる。
著者
滝川 一廣
出版者
学校法人 敬心学園 職業教育研究開発センター
雑誌
敬心・研究ジャーナル (ISSN:24326240)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.1-8, 2019 (Released:2020-01-24)
参考文献数
5
被引用文献数
1

〈児童虐待〉の増加や深刻化が一般報道ではもちろん専門家の論説でもよく語られ、現代の社会通念となっている。〈虐待〉が深刻な問題なのは論を待たない。しかし、本当に実数的に増えているか、内容の深刻度が増しているかについては、別の検討が必要となる。本論文では、増加や深刻化が進んでいるとは安易に言えず、むしろ逆の可能性すらある事実を検証する。この事実にも拘わらず「増加」「深刻化」が社会的に疑われないのは、厚労省が毎年公表する「虐待相談対処件数」が増加の一途のためであろう。しかし、誤通告も多く含まれる「相談件数」だけでは増減は分からず、対処して実際に〈虐待〉と確認された「実数」こそが重要である。ところが厚労省は何故かその数字を明らかにしない。日本の「虐待対策」は「実数」という基礎データを踏まえないまま進められている。本論文では、そうなった理由についても若干の考察を試みる。
著者
杵渕 洋美
出版者
学校法人 敬心学園 職業教育研究開発センター
雑誌
敬心・研究ジャーナル (ISSN:24326240)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.27-38, 2020 (Released:2021-01-29)
参考文献数
39

本稿は、ドイツの職業教育におけるコンピテンスおよびEU諸国との制度共通化に向けた国内制度の整備と職業教育の高度化の動向を捉えたものである。EU全体の動きとして、資格・学位を共通の視点で理解するための仕組みである欧州資格枠組み(EQF)が策定され、ドイツは資格枠組みDQRを運用しているが、高等教育に重点が置かれる高度化の動きは労働市場との不適合を起こしている。またDQRはコンピテンスを軸に構成されており、そのレベルが能力指標となっているが、EU共通の学位制度の導入により、単位を取得することで学位が得られ、それがDQRのレベルを表し、相応の能力認定が容易になった。この動きは、「能力」が「資格」と同じように「所有」するものとして扱われること、すなわち能力の等価交換性を生むものである。さらにその「能力」は個人の責任において獲得すべきという技能形成の「自己責任」「個人主導」への方向転換である。
著者
黛 真人
出版者
学校法人 敬心学園 職業教育研究開発センター
雑誌
敬心・研究ジャーナル (ISSN:24326240)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.109-114, 2020 (Released:2020-07-15)
参考文献数
6

介護福祉士養成校に入学する外国人留学生が増えている。だが、入学後に学校に来られなくなってしまう、学校に来ても授業に集中することが難しい外国人留学生がいる。その理由、背景にはどのようなことがあるのだろうか。日本で生活するうえでの悩みや大変だと感じることを聞き、理解することが教育を担う教員として必要ではないかと感じ、外国人留学生に対してアンケート調査を行った。生活するうえで問題になるのは「お金」や「言葉」であり、具体的にどのような場面で困り、どのように生活しているのか明らかになった。お金や言葉の問題を解決するために、教員として理解しておかなければならない制度がある。教員が制度を理解した上でどのようなことに困っているのかを考え、真剣に向き合うことで外国人留学生との相談しやすい関係性を築くことが生活課題を解決するための大切な要素の一つであると気づかされた。
著者
大谷 修
出版者
学校法人 敬心学園 職業教育研究開発センター
雑誌
敬心・研究ジャーナル (ISSN:24326240)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.1-7, 2019

<p>消毒や漂白のために用いられる塩素系製剤はしばしば健康被害をもたらす。塩素系製剤である次亜塩素酸ナトリウム(ハイター)は水溶液中で加水分解して次亜塩素酸を生じる。この次亜塩素酸が殺菌効果を発揮する。 次亜塩素酸は排水管などの金属を腐食させる。次亜塩素酸ナトリウムはトイレ掃除に使う塩酸や酸性洗剤と反応して有毒な塩素ガスを生じる。塩素ガスを吸引すると、肺水腫などの重篤な呼吸器障害を生じる。レジオネラ感染を予防する目的で温泉水に次亜塩素酸ナトリウムを加えても窒素化合物と反応してクロラミンを生じるので殺菌効果が小さい。塩素処理したスイミングプールにおいても喘息等を発症するリスクが高まり、アレルギー疾患を増悪する。急性胃腸炎を起こすノロウイルス感染を防ぐには、牡蠣などの生食を避けること、感染者に調理や給仕をさせないこと、およびトイレ、ドアノブ、手すり、壁面スイッチなどを適切な濃度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を含んだペーパータオルで拭くことが重要である。吐物や便は、まず拭き取ってから、床面を次亜塩 素酸ナトリウム水溶液を含んだペーパータオルで拭く。次亜塩素酸ナトリウム水溶液をスプレー等で噴射するのは次亜塩素酸を含んだエアロゾルを吸引するので健康被害をもたらす恐れがあり危険である。感染防止で最も重要なのは手指衛生を保つことである。ノロウイルスはアルコール抵抗性を示すので、頻回に石鹸と流水で少なくとも20秒間手を洗うことが重要である。</p>
著者
稲垣 元
出版者
学校法人 敬心学園 職業教育研究開発センター
雑誌
敬心・研究ジャーナル (ISSN:24326240)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.77-80, 2019 (Released:2020-01-24)
参考文献数
6

鍼灸の臨床では適切なツボに施術する必要がある。ツボの位置は指標となる骨突出部などからの距離および方向で定義してあり、単位は尺貫法を使う。鍼灸師養成課程で使用する教科書では1尺=30センチつまり1寸=3センチと定義する。個人差を考慮すると、この換算値で万人のツボを探す(以下、ツボを取ると表現する)のは不可能で、臨床では便宜的に各人の体格に合わせて1寸を調整して用いている。とは言え1寸=3センチは平均的な体格の患者にとってはやや長すぎる印象を受ける。 メートル法では1メートルを1秒の299,792,458分の1の時間(約3億分の1秒)に光が真空中を伝わる距離と基準があるのに対して、尺貫法では歴代、基準が一定していない。本調査において1寸を人体の実測値をもとに調査した結果、1寸=2.0~2.2センチの値になると示唆された。
著者
原 善
出版者
学校法人 敬心学園 職業教育研究開発センター
雑誌
敬心・研究ジャーナル (ISSN:24326240)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.21-31, 2018

<p>三浦哲郎の『ユタとふしぎな仲間たち』は彼にとって唯一の児童を読者対象として描いた児童文学であり、一見彼の文学系譜の中からは浮いて見えてしまうが、彼には大人向けに書いた文学作品にも同じく座敷童子をモチーフにした作品がいくつかあり、紛れもなく彼の作品系譜に位置づくものである。それどころか、なぜ彼が座敷童子に関心を持ち続けたかと言えば、そこには彼の生い立ちや家族の血の歴史が大きく影を落としているのであり、『忍ぶ川』『白夜を旅する人々』などと繋がる、むしろ三浦文学の主流に位置づく作品なのである。そこに、近代作家が民話をアダプトしていく中で、伝統とは別に作家個人の独自の主題が入りこむ典型的な在りようを見ることができる。そして「座敷童子異聞」という後続の作品を参照すれば、むしろ『ユタとふしぎな仲間たち』は先に位置づけた座敷童子系譜の中からは浮き上がる、それこそ〈異聞〉としての独自性が見えてくるはずなのである。</p>
著者
安部 高太朗 吉田 直哉 鈴木 康弘
出版者
学校法人 敬心学園 職業教育研究開発センター
雑誌
敬心・研究ジャーナル (ISSN:24326240)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.9-19, 2019 (Released:2019-07-16)
参考文献数
9

本稿の目的は、九州地方に所在する全国神社保育団体連合会加盟園の保育・教育理念の特色を明らかにするものである。神道に関連する文言を理念に掲げ、神道行事等を行っている22園分の理念をテキストファイル化し、KHコーダーを用いて保育・教育理念の特徴を析出した。 神道系園の保育・教育理念では、目指されるべき子ども像として「浄く・正しく・明るい」子どもが掲げられる。「浄く」とは、精神の明澄さを表す。「正しく」とは、実直なさまを表す。「明るい」とは、精神的なエネルギーが充溢した自己の内面を開示して、他者と交流するさまを示す。保育環境として重視されている、神社と一体化した鎮守の森は、神の顕現としての自然の豊かさを湛えることで子どもの心を揺さぶる。自然としての神の脅威に触れ、その恵みに感謝することが、神道園における情操教育の基盤なのである。自然に宿る神は、保護者と共に子どもの成長を見守る水平的・共存的存在である。
著者
吉田 直哉
出版者
学校法人 敬心学園 職業教育研究開発センター
雑誌
敬心・研究ジャーナル (ISSN:24326240)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.59-67, 2020 (Released:2021-01-29)
参考文献数
16

本稿は、一般向けの解説書において「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」(通称「10の姿」)がどのように語られているか、その言説の態様を明らかにすることを目的とする。まず、公式解説および改訂の当事者であった無藤隆の「10の姿」への解説を検討した上で、無藤以外の論者による「10の姿」に対する論及を検討し、公式解説やその執筆主導者であった無藤の根本意想が、他の論者によっていかに多様に変質させられ「解釈」されつつあるかを示し、両者の間にある懸隔を確かめる。
著者
松永 繁
出版者
学校法人 敬心学園 職業教育研究開発センター
雑誌
敬心・研究ジャーナル (ISSN:24326240)
巻号頁・発行日
vol.1, no.2, pp.103-107, 2017 (Released:2018-09-20)
参考文献数
14

介護福祉分野において外国人介護職が増加している。その中にはイスラーム教徒も多数存在しており、彼らとの協働の機会も増えているが、宗教への理解や生活習慣への理解の困難さも報告されている。 本稿では、多文化共生の視座を得る目的で、イスラームの世界観をキーワードに検討した。結果、イスラームはお互いの世界観の存在を前提に自らのイスラーム世界の律法の対象としない等、他世界への侵入を行なわないことで共生を実現してきたイスラーム観が存在していた。 また、多文化共生の障壁として、対等な関係性を前提としていない社会的構造が存在し、これが並行社会へと向かうことにもつながる。 以上のことから、多文化共生実現のためには、宗教の教義や文化、習慣といった理解に終始するのではなく、文化相対主義の視点と対等な関係性を前提とした社会的構造の構築の必要性が示唆された。
著者
遠藤 久美子 山本 真吾 大江 直美 天野 陽介
出版者
学校法人 敬心学園 職業教育研究開発センター
雑誌
敬心・研究ジャーナル (ISSN:24326240)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.83-88, 2022 (Released:2022-07-20)
参考文献数
13

【目的】鍼の刺鍼方向によって顔面部のシワに対する影響を調べることで、美容鍼灸の基礎的なアプローチ方法の開拓を行い、学校教育、鍼灸業界発展に寄与できると考え研究を行った。【方法】健康成人男女10名を対象とした。目尻のシワに対してレプリカ剤を用いて採取した。シワに対して平行方向で刺激を行う群と、シワに対して直角方向で刺激を行う群の2群とし鍼を行なった。統計処理はt検定分析を行い、有意判定は5%とした。【結果】施術前後の比較では有意差がみられたが、シワに対して平行方向で刺激を行う群と、シワに対して直角方向で刺激を行う群との比較では有意差はみられなかった。【考察】シワに対しての鍼刺激は、鍼の方向に関係なく減少傾向が認められた。ただし個人差も大きいため、今後さらなる研究が必要である。
著者
小泉 浩一
出版者
学校法人 敬心学園 職業教育研究開発センター
雑誌
敬心・研究ジャーナル (ISSN:24326240)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.91-99, 2019

<p> 本稿の目的は、現代における難民や労働者を含む、定住外国人の受け入れに関わる原初的な事例として、インドシナ難民の受け入れに関するわが国の対応と支援の実際について、各種文献より明らかにするものである。</p><p> インドシナ難民の受け入れは、定住受け入れ枠の拡大とともに公的支援ばかりではなく、日本赤十字社や宗教法人等を中心とした民間支援が拡大していくことになる。わが国のインドシナ難民受け入れに関わる施策等の変遷とともに、公的支援および民間支援の実際についてまとめ、考察を加えた。</p><p> 今日のわが国の難民受け入れや、国外退去処分を受けた外国人の長期収容の問題、定住外国人労働者の増加など、「人権」等に即した支援を志向するうえで、インドシナ難民受け入れに関する事例を、あらためて検討すべきであろう。</p>
著者
中島 広明
出版者
学校法人 敬心学園 職業教育研究開発センター
雑誌
敬心・研究ジャーナル (ISSN:24326240)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.79-84, 2021 (Released:2021-07-19)
参考文献数
6

新型コロナウイルス感染が全世界的な解決すべき課題となっている。新型コロナウイルス感染者からの自殺者まで出ている。現代にあっては、新型コロナウイルスはある種の「差別」の対象ともなっていると言えるのではないか。しかし、「差別」の対象は人種問題、ジェンダー、障がい者問題等、さまざまある。本稿では差別や、人の「自己中心性」を取り上げたうえで、差別、偏見、自己中心性から脱却するためのひとつの概念として、「愛」という概念を取り上げた。「愛」を実践した人物として、吉田松陰と三浦綾子の場合を検討した。そして、ヒューマンサービス業である教育職や福祉職が自分自身さえも「特別視」せず、「与えること」を実践することで、学生や利用者らも「与え手」になり得ること、そうして両者が与え合う応答関係になり得ることの試論を試みた。
著者
水引 貴子 歌川 光一
出版者
学校法人 敬心学園 職業教育研究開発センター
雑誌
敬心・研究ジャーナル (ISSN:24326240)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.63-65, 2019

<p> 近年、故・さくらももこ氏作「ちびまる子ちゃん」は小学校の道徳教材としても活用されている。本稿では、1990年に劇場公開された「ちびまる子ちゃん 大野君と杉山君」の、友情やチャムシップの性差を考える教材としての意義に触れる。</p>
著者
中島 広明
出版者
学校法人 敬心学園 職業教育研究開発センター
雑誌
敬心・研究ジャーナル (ISSN:24326240)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.37-44, 2020 (Released:2020-07-15)
参考文献数
13

デンマークの職業教育において、早期離学(ドロップアウト) が社会問題となっている。そのため2015年に職業教育改革が行われた。なぜ、デンマークの職業教育で早期離学問題が起きているのか。そして、デンマークではどのようにして、早期離学問題に対処しようとしているのか。デンマークの教育や教育改革の概説をしたうえで、日本の高校、大学等へのアクセスを対比させて検討し、わたしたちがデンマークの職業教育改革から何を学ぶことができるのかを議論したい。
著者
原 善 菅野 陽太郎 崔 順愛 恒川 茂樹
出版者
学校法人 敬心学園 職業教育研究開発センター
雑誌
敬心・研究ジャーナル (ISSN:24326240)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.115-123, 2020 (Released:2020-07-15)
参考文献数
17

村上春樹が一見意外に見える児童文学からの影響を大きく受けていることを確かめるためには、彼自身の児童文学に対する発言を攫っていくことや、彼が多く為している絵本の翻訳が持つ意味を探ること、等の有効なアプローチがあるが、春樹の文学の大きな特徴の一つとされている直喩について考えることからも、彼における児童文学の影響の大きさを明らかにすることができるはずである。なぜなら直喩とは眼前の喩えられるもの(所喩)に、今ここにないもの(能喩)を重ねていくレトリックであるが、小説作品を中心にした彼の文学の全業績の中から、能喩部分に内外古今の児童文学作品が嵌めこまれている例を拾い上げていくことで、単に彼が多くの児童文学作品を読んできたという読書歴を炙り出すだけでなく、彼が自らの世界(所喩)を構築するにあたっていかに児童文学作品世界(能喩)をその下敷きに入れているかという間テクスト性に思いを及ぼすことができるはずだからである。
著者
原 善
出版者
学校法人 敬心学園 職業教育研究開発センター
雑誌
敬心・研究ジャーナル (ISSN:24326240)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.21-31, 2018 (Released:2018-10-05)

三浦哲郎の『ユタとふしぎな仲間たち』は彼にとって唯一の児童を読者対象として描いた児童文学であり、一見彼の文学系譜の中からは浮いて見えてしまうが、彼には大人向けに書いた文学作品にも同じく座敷童子をモチーフにした作品がいくつかあり、紛れもなく彼の作品系譜に位置づくものである。それどころか、なぜ彼が座敷童子に関心を持ち続けたかと言えば、そこには彼の生い立ちや家族の血の歴史が大きく影を落としているのであり、『忍ぶ川』『白夜を旅する人々』などと繋がる、むしろ三浦文学の主流に位置づく作品なのである。そこに、近代作家が民話をアダプトしていく中で、伝統とは別に作家個人の独自の主題が入りこむ典型的な在りようを見ることができる。そして「座敷童子異聞」という後続の作品を参照すれば、むしろ『ユタとふしぎな仲間たち』は先に位置づけた座敷童子系譜の中からは浮き上がる、それこそ〈異聞〉としての独自性が見えてくるはずなのである。
著者
吉田 直哉 鈴木 康弘 安部 高太朗
出版者
学校法人 敬心学園 職業教育研究開発センター
雑誌
敬心・研究ジャーナル (ISSN:24326240)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.81-89, 2018 (Released:2019-01-23)
参考文献数
30

本稿の目的は、保育者の専門性に関する議論の現状と、その課題を明らかにすることにある。現在の保育者の専門性論には、保育者の専門性を、具体的に保育者が向き合う複数の職務の場面ごとに専門性を当てはめていく論法、あるいは、ケアという保育者にとっての根源的・核心的な専門性を想定し、そこから保育者の具体的な職務能力が派生すると考える論法の二つの形態が見られる。前者は、複数に分化した専門性の間の関連性が見失われがちであるという欠点、後者は、ケアという心理的・倫理的概念が、保育者の専門性を、個人の人格的な特性や資質といった、訓練可能なスキル以外のものに押し込めてしまう欠点を有している。今後の保育者の専門性論は、これらの欠点の克服、つまり、保育者の専門性諸要素の構造化と、保育者の専門性を訓練可能、伝達可能なスキル・知識の体系として構築することという二つの課題に向き合わなければならない。
著者
松永 繁
出版者
学校法人 敬心学園 職業教育研究開発センター
雑誌
敬心・研究ジャーナル (ISSN:24326240)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.35-43, 2019 (Released:2019-07-16)
参考文献数
13

専門学校における従来の学習継続困難、中途退学に関する研究では、経済的な側面や「学力」の側面から検討されてきた。本研究では、非認知能力の人間関係形成能力をキーワードにして、介護福祉士養成専門学校で学ぶ学生の学習継続困難要因、背景、教員の対応に焦点を当て検討した。結果、課題としては、【構成員からの離脱】【自己中心的な世界観】【孤立させる行動】の概念を生成し、背景では、【理想の子ども像】【スキル形成機会の剥奪】の概念を生成した。教員の具体的支援については、≪個別面談≫≪個別指導≫≪他の教員との情報共有≫≪家族への連絡≫の4つのカテゴリーを生成した。 結論として、人間関係形成能力の発達途上に学習継続困難となる課題が生じていることが示唆された。