- 著者
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金桶 吉起
乾 幸二
渡辺 昌子
- 出版者
- 生理学研究所
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2003
本研究は、仮現運動知覚および第2次運動知覚について、生理学的研究を脳磁図および機能的磁気共鳴画像にて行った。ランダムドットパターンを用いた仮現運動刺激では、ちらつきと運動の知覚を外的刺激を変化させずに与えることができる。よって刺激によらず運動知覚に伴う内的な脳機能の違いを検討することができた。結果は、運動知覚が惹起されるときはちらつきが惹起されるときと比して100ms前後から高い神経活動を示した。これは両者の知覚が視覚系の早い段階から競合しながら形成されていくことを示唆する。また、第2次運動知覚に関わる脳部位を機能的磁気共鳴画像を用いて検討した。第2次運動とは、明るさの時間変化を検出して運動を知覚する第1次運動知覚に対する概念で、物体の模様やコントラストなどの全般的な要素の位置の変化を検出することによって初めて知覚される。これまでにも同様の試みは多くなされてきたが、第2次運動知覚のみに特異的に関わる部位の同定はできておらず、臨床例の研究との結果に乖離があった。我々は、第2次運動知覚をもたらす視覚刺激を2003年に新たに創作した。この刺激は、第1次運動の影響を理論的に皆無にし、また第2次運動知覚の中でももっともその特徴を有するという性質を持つ。この刺激を用いて、脳磁図にて初めて第1次と第2次運動に対する反応の違いを明らかにした。今回は、この刺激を機能的磁気共鳴画像実験に応用した。視認性の影響を調べるために、第2次運動より見にくい第1次運動と、第2次運動、そして第2次運動と同程度の見易さの第1次運動、さらに第1次と第2次運動の両者の性質を持つ混合運動の刺激を用いて、それぞれに反応する脳部位を検索した。その結果、第2次運動に特異的に反応する部位は、上側頭溝後部にあった。この部位に障害を起こした臨床例が、第2次運動に特異的に知覚障害を起こしたことが報告されており、その結果とみごとに一致する。また、同部位は、biological motionや表情の変化にも特異的に反応することが知られており、高次の運動知覚に広く関わることが示された。