著者
荻野 祐一 根本 英徳 斉藤 繁 後藤 文夫 乾 幸二 柿木 隆介
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.1-6, 2008-01-25 (Released:2011-12-01)
参考文献数
18
被引用文献数
1

痛みは不快な感覚であるが,同時に主観的な感情である.新しいニューロイメージングにより,痛みの感情と,それが痛覚認知に与える影響が科学的に明らかになってきた.本稿では,それらについて最近の私たちの研究成果を中心に紹介する.近年,侵害刺激に反応して活動する大脳皮質領域,いわゆる痛み関連脳領域が明らかとなったが,実際に痛み刺激が与えられなくても,痛みをイメージした時には類似の脳部位が活動するという仮説を実証するため,私たちは痛そうな写真(注射をされている写真など)を被験者に見せて,機能的MRI(fMRI)で脳活動を計測した.その結果,第二次体性感覚野,島,帯状回といった痛覚認知に関与する脳領域の血流が有意に上昇する事を発見した.また,瞑想中には痛みをまったく感じないというヨガの達人では,瞑想中に痛覚刺激を与えたときの脳磁図とfMRIの計測では,痛み関連脳領域の活動が著しく減弱していた.このように,痛みの感情により生じる脳活動は,痛み関連脳領域の主要活動を占めており,暗示や瞑想などにより,侵害刺激による痛み関連脳領域の活性化と抑制が起こり,痛覚認知が強く影響されていることが明らかとなった.
著者
金桶 吉起 乾 幸二 渡辺 昌子
出版者
生理学研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究は、仮現運動知覚および第2次運動知覚について、生理学的研究を脳磁図および機能的磁気共鳴画像にて行った。ランダムドットパターンを用いた仮現運動刺激では、ちらつきと運動の知覚を外的刺激を変化させずに与えることができる。よって刺激によらず運動知覚に伴う内的な脳機能の違いを検討することができた。結果は、運動知覚が惹起されるときはちらつきが惹起されるときと比して100ms前後から高い神経活動を示した。これは両者の知覚が視覚系の早い段階から競合しながら形成されていくことを示唆する。また、第2次運動知覚に関わる脳部位を機能的磁気共鳴画像を用いて検討した。第2次運動とは、明るさの時間変化を検出して運動を知覚する第1次運動知覚に対する概念で、物体の模様やコントラストなどの全般的な要素の位置の変化を検出することによって初めて知覚される。これまでにも同様の試みは多くなされてきたが、第2次運動知覚のみに特異的に関わる部位の同定はできておらず、臨床例の研究との結果に乖離があった。我々は、第2次運動知覚をもたらす視覚刺激を2003年に新たに創作した。この刺激は、第1次運動の影響を理論的に皆無にし、また第2次運動知覚の中でももっともその特徴を有するという性質を持つ。この刺激を用いて、脳磁図にて初めて第1次と第2次運動に対する反応の違いを明らかにした。今回は、この刺激を機能的磁気共鳴画像実験に応用した。視認性の影響を調べるために、第2次運動より見にくい第1次運動と、第2次運動、そして第2次運動と同程度の見易さの第1次運動、さらに第1次と第2次運動の両者の性質を持つ混合運動の刺激を用いて、それぞれに反応する脳部位を検索した。その結果、第2次運動に特異的に反応する部位は、上側頭溝後部にあった。この部位に障害を起こした臨床例が、第2次運動に特異的に知覚障害を起こしたことが報告されており、その結果とみごとに一致する。また、同部位は、biological motionや表情の変化にも特異的に反応することが知られており、高次の運動知覚に広く関わることが示された。