著者
鈩 悠介
出版者
全国社会科教育学会
雑誌
社会科研究 (ISSN:0289856X)
巻号頁・発行日
vol.91, pp.13-24, 2019-11-30 (Released:2021-04-01)

本研究は,歴史の何を重要だと感じ,なぜ重要だと感じるのかについて,中学校1年生から3年生までの子ども31人を対象に,半構造化インタビューを用いて明らかにしたものである。英米歴史教育研究における分析枠組みと研究方法を用いることで,本研究は,子どもが(1)主に文化や技術の発達などの「現在を成り立たせるもの」,(2)外国との交流などの「ソトとの関係性」,(3)国家的な制度の形成などの「ウチなる自立性」の3つのテーマで構成されるナラティブ・テンプレートに則って歴史的出来事や人物の意義を説明していたこと,そしてその一方で,子どもたちは死と犠牲やそれらへの抵抗への言及もしたが,これらが重要であると子どもが捉える文脈は限られていたことを明らかにした。本研究の結論は,少なくとも中学校段階において子どもは歴史の何が重要であるかを判断して語ることができるため,教師は子どものその歴史の見方を一つの教材として利用すべきだということである。具体的には,取捨選択を伴う活動を通して子ども自身に自分の歴史の見方をメタ認知させること,その歴史の見方を利用して子どもの学習の動機付けをすること,子どもの歴史の見方をさらに相対化させるようなエイム・トークを行うことである。
著者
星 瑞希 鈩 悠介 渡部 竜也
出版者
日本教科教育学会
雑誌
日本教科教育学会誌 (ISSN:02880334)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.25-37, 2020 (Released:2021-07-11)
参考文献数
14

知識偏重の歴史教育に代わるアプローチとしての「歴史する」授業は歴史学の学問的アプローチの再現とする傾向が見られる。本稿では,保苅実による歴史学の方法論をめぐる議論,レヴスティクとバートンによる歴史教育の議論の分析を通して,「歴史する」の捉え方の位相の差異を示し,「歴史する」を歴史学の学問的アプローチに一元化してしまうことの課題について考察を行う。保苅とレヴスティクらは,歴史学の学問的アプローチのみならず社会には多様な歴史実践が存在することを認め,それらを多元的社会や参加民主主義といった理想的な社会の実現と関連させ論じる点において共通している。彼らの論を踏まえれば,学問的アプローチへ一元化することの課題は,(1)学問的であるとみなされない人々の語りを排除してしまい,多元的社会や参加民主主義の実現に逆行するおそれがあること,(2)子どもたちの歴史を学ぶ意味を満たしにくくなる可能性があることである。