- 著者
-
渡部 竜也
- 出版者
- 日本教育方法学会
- 雑誌
- 教育方法学研究 (ISSN:03859746)
- 巻号頁・発行日
- vol.29, pp.85-96, 2004-03-31 (Released:2017-04-22)
本研究の目的は,社会問題学習には,科学主義社会科の延長上に位置付く実在型社会問題学習と,科学主義社会科とは別の観点から生み出された唯名型社会問題学習の二つが存在することを踏まえつつ,なぜ,合衆国の社会科教育において,今日後者が注目されるのか,その原理的説明を試みることである。この目的を達成するために,(1)科学主義社会科に向けられた批判にはどのようなものがあり,(2)唯名型(ここでは特にハーバード社会科に注目する)はその問題点をどのように克服しているのか,を明らかにする。本研究で導き出された科学主義社会科の問題点4つのうち主なものと,それに対する唯名型社会問題学習の克服手法を示すと,以下のようになる。1)科学主義社会科の問題の第一は,多様にある学説の中からどれを教えればよいのか,内容編成の基準を明確に示せない点にある。唯名型社会問題学習は,多種多様な見解を持つ人間の論争に注目するので,対立する学説・見解を,時間の許す限り全て授業に持ち込むことができ,この問題を克服できる。2)問題の第二は,この社会科が事実上ある研究者の見解の教え込みをする学習になっている点にある。唯名型社会問題学習は,論争を通して多種多様な見解を比較するために,それらの見解同士を対象化して見ることができるので,これを克服できる。