著者
鈴木 岳之 都筑 馨介 亀山 仁彦 郭 伸
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.122, no.6, pp.515-526, 2003 (Released:2003-11-20)
参考文献数
45
被引用文献数
12 14

グルタミン酸AMPA受容体は中枢神経系において速い興奮性神経伝達を担う重要なイオンチャネル型受容体である.この受容体は4つのサブユニットからなるテトラマーであり,その構成サブユニットはGluR1~4までの4種に分類され,さらにそれぞれがスプライシングバリアントを持つ.また,そのサブユニットのうちGluR2では,その第2膜親和性領域(イオンチャネルポアを形成する部分)にRNA編集によるグルタミンからアルギニンへの変換が生じている部位がある(Q/R部位).このアルギニンへの変換を受けた編集型GluR2サブユニットを構成成分に含むAMPA受容体はほとんどカルシウム透過性を持たないが(タイプ1受容体),含まないAMPA受容体は高いカルシウム透過性を示す(タイプ2受容体).受容体形成時には,このサブユニットの会合の段階でGluR2サブユニットを含むAMPA受容体の方が含まないものよりも形成されやすい調節を受けている可能性が示唆されている.また,各サブユニットの細胞内での輸送に関してもサブユニットにより異なる輸送機構が働いている可能性も明らかにされてきている.このようにAMPA受容体形成はサブユニット段階での種々の調節を受けていることが明らかとなってきている.タイプ2受容体がそのカルシウム透過性により神経脆弱性の発現に関与していることは知られているが,筋萎縮性側索硬化症の患者の脊髄運動神経においてはRNA編集が正常には行われず,Q/R部位がグルタミンのままのGluR2サブユニット(非編集型GluR2)が多く存在しており,その結果カルシウム透過型AMPA受容体が多く発現していることが明らかとなった.また,グリア細胞にはタイプ2AMPA受容体が発現しているが,ここに編集型GluR2を強制発現させるとグリア細胞の突起の退縮や神経膠芽腫細胞の増殖抑制などが観察された.このように,AMPA受容体は生体内において通常の興奮性神経伝達だけではなく,特にそのカルシウム透過性により神経機能や病態に深く関わっている可能性がある.
著者
鈴木 岳之 郭 伸 佐藤 薫
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

神経炎症を惹起する細胞として、ミクログリアに焦点を当てた。In vitro条件下でミクログリアを活性化処理し、そこから放出される内因性因子を解析した。その結果、活性化ミクログリアよりグルタミン酸が放出され、神経毒性を示すことを明らかにし、この過程にATPが関与することも示した。このグルタミン酸の放出作用はグルタミン酸トランスポーター機能変動を介する作用であることを明らかにした。また、疾病治療にリンクする知見として、抗うつ薬であるパロキセチンがミクログリアの活性化を抑制する知見を得た。これは、神経疾患に対する新たな治療アプローチを示すもので、今後の薬物治療戦略の確立に貢献できる研究成果である。