著者
赤松 恵 山下 雄也 郭 伸
出版者
日本神経治療学会
雑誌
神経治療学 (ISSN:09168443)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.86-94, 2017 (Released:2017-07-25)
参考文献数
36

Both TAR DNA binding protein of 43kDa (TDP–43) pathology and failure of RNA editing at the glutamine/arginine (Q/R) site of GluA2, a subunit of the α–amino–3–hydroxy–5–methyl–4–isoxazole propionic acid (AMPA) receptor, are the characteristic etiology–linked molecular abnormalities that concomitantly occur in the motor neurons of the majority of patients with amyotrophic lateral sclerosis (ALS), the most common adult–onset fatal motor neuron disease. Adenosine deaminase acting on RNA 2 (ADAR2) specifically catalyzes RNA editing at the Q/R site of GluA2, and conditional ADAR2 knockout mice (ADAR2flox/flox/VAChT–Cre.Fast ; AR2 mice) exhibit a progressive ALS phenotype with TDP–43 pathology–like TDP–43 mislocalization in the ADAR2–lacking motor neurons. Because Ca2+–permeable AMPA receptor–mediated mechanism underlies death of motor neurons in the AR2 mice, amelioration of exaggerated Ca2+ influx by AMPA receptor antagonists may be a potential ALS therapy. Here we showed that oral perampanel, a selective non–competitive AMPA receptor antagonist, significantly prevented progression of ALS phenotype and death of motor neurons with effective normalization of TDP–43 pathology in the AR2 mice. Given that perampanel has already been approved as an anti–epileptic drug, perampanel would be a potential candidate ALS drug.
著者
鈴木 岳之 都筑 馨介 亀山 仁彦 郭 伸
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.122, no.6, pp.515-526, 2003 (Released:2003-11-20)
参考文献数
45
被引用文献数
12 14

グルタミン酸AMPA受容体は中枢神経系において速い興奮性神経伝達を担う重要なイオンチャネル型受容体である.この受容体は4つのサブユニットからなるテトラマーであり,その構成サブユニットはGluR1~4までの4種に分類され,さらにそれぞれがスプライシングバリアントを持つ.また,そのサブユニットのうちGluR2では,その第2膜親和性領域(イオンチャネルポアを形成する部分)にRNA編集によるグルタミンからアルギニンへの変換が生じている部位がある(Q/R部位).このアルギニンへの変換を受けた編集型GluR2サブユニットを構成成分に含むAMPA受容体はほとんどカルシウム透過性を持たないが(タイプ1受容体),含まないAMPA受容体は高いカルシウム透過性を示す(タイプ2受容体).受容体形成時には,このサブユニットの会合の段階でGluR2サブユニットを含むAMPA受容体の方が含まないものよりも形成されやすい調節を受けている可能性が示唆されている.また,各サブユニットの細胞内での輸送に関してもサブユニットにより異なる輸送機構が働いている可能性も明らかにされてきている.このようにAMPA受容体形成はサブユニット段階での種々の調節を受けていることが明らかとなってきている.タイプ2受容体がそのカルシウム透過性により神経脆弱性の発現に関与していることは知られているが,筋萎縮性側索硬化症の患者の脊髄運動神経においてはRNA編集が正常には行われず,Q/R部位がグルタミンのままのGluR2サブユニット(非編集型GluR2)が多く存在しており,その結果カルシウム透過型AMPA受容体が多く発現していることが明らかとなった.また,グリア細胞にはタイプ2AMPA受容体が発現しているが,ここに編集型GluR2を強制発現させるとグリア細胞の突起の退縮や神経膠芽腫細胞の増殖抑制などが観察された.このように,AMPA受容体は生体内において通常の興奮性神経伝達だけではなく,特にそのカルシウム透過性により神経機能や病態に深く関わっている可能性がある.
著者
鈴木 岳之 郭 伸 佐藤 薫
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

神経炎症を惹起する細胞として、ミクログリアに焦点を当てた。In vitro条件下でミクログリアを活性化処理し、そこから放出される内因性因子を解析した。その結果、活性化ミクログリアよりグルタミン酸が放出され、神経毒性を示すことを明らかにし、この過程にATPが関与することも示した。このグルタミン酸の放出作用はグルタミン酸トランスポーター機能変動を介する作用であることを明らかにした。また、疾病治療にリンクする知見として、抗うつ薬であるパロキセチンがミクログリアの活性化を抑制する知見を得た。これは、神経疾患に対する新たな治療アプローチを示すもので、今後の薬物治療戦略の確立に貢献できる研究成果である。
著者
郭 伸 Struzik Zbigniew R 相馬 りか 大橋 恭子 潘 衛東 山本 義春
出版者
一般社団法人 日本めまい平衡医学会
雑誌
Equilibrium Research (ISSN:03855716)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.58-64, 2008 (Released:2008-05-02)
参考文献数
19
被引用文献数
2

By means of noisy galvanic vestibular stimulation (GVS), it might be possible to ameliorate the blunted responsiveness of degenerated neuronal circuits in patients with degenerative neurological diseases. We evaluated the effects of 24-hour noisy GVS on the long-term heart rate dynamics in patients with multiple system atrophy and on the daytime trunk activity dynamics in patients with either levodopa-responsive Parkinson's disease or levodopa-unresponsive parkinsonism patients. Patients were also examined for cognitive performance by means of a continuous performance test. Short-range or high-frequency fluctuations of the heart rate were significantly increased by the noisy GVS as compared with that by sham stimulation, suggestive of improved autonomic, especially parasympathetic, responsiveness. The long-range anti-persistency of trunk activity patterns probed by an autocorrelation measure was significantly increased by the noisy GVS, suggestive of quickening of bradykinesic rest-to-active transitions. The mean reaction time in the continuous performance test was also significantly decreased by the noisy GVS, without significant changes in either the omission or commission error ratios, which is suggestive of improved motor execution during the cognitive task. Thus, noisy GVS improved the motor and autonomic responsiveness and is effective for ameliorating the symptoms in patients with multiple system atrophy or Parkinson's disease.
著者
山下 雄也 郭 伸
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.12, pp.1151-1154, 2014 (Released:2014-12-18)
参考文献数
10

ALSの病理学的指標であるTDP-43病理の形成メカニズムは未解明であり,引き金になるTDP-43の易凝集性断片形成に関与するプロテアーゼやその活性化メカニズムに関する合理的な説明はなかった.われわれは,孤発性ALSのもう一つの疾患特異的分子変化である,RNA編集酵素ADAR2の発現低下を再現するALSの分子病態モデルマウスの解析から,異常なCa2+透過性AMPA受容体発現を介したカルパインの活性化が,凝集性の高いTDP-43断片を形成することを明らかにした.この分子カスケードに通じるメカニズムは,孤発性ALSのみならず他の神経疾患に観察されるTDP-43病理形成にも当て嵌まることが強く示唆されたので概説する.
著者
郭 伸
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2004

我々は、グルタミン酸受容体サブタイプであるAMPA受容体のサブユニットGluR2 mRNAのQ/R部位RNA editingがALS患者の脊髄運動ニューロンで選択的に低下していることを明らかにした。GluR2 mRNAのQ/R部位RNA editingはRNA編集酵素であるadenosine deaminase acting on RNA type 2(ADAR2)により特異的に触媒されるので、この分子変化は、ADAR2の活性低下によると考えられる。ADAR2の活性を規定する因子のひとつに総mRNA量、ADAR2 mRNA対GluR2 mRNA比が明らかにされているが、ADAR2のmRNAには多くのsplicing variantが存在することが知られており、翻訳タンパクの活性が異なることが報告されているため、variantの発現量により活性への影響が異なり、ひとつの調節機構として働いていることが考えられる。今回、RT-PCR、ノーザンブロッティングによるADAR2 mRNAの分析により、新しいsplicing variant 2種を見出し、他のvariantと共に発生段階、脳部位による発現パターンの違いの有無を検討した。新たに見出されたvariantの1つはADAR2に存在する二個の二重鎖RNA結合部位をコードするexon2のexon skippingであり、frameshiftにより下流のexonに新たなストップコドンを生じていることから、活性型タンパクに翻訳されるとは考えにくいsplicing variantである。第2のsplicing siteはexon 9に位置し、long C terminusをコードするストップコドンの83塩基下流に位置する。このsplicing variantは従来のlong C端を持つisoformに翻訳され、活性型ADAR2をコードする。この2種のvariantを加え、理論的には48種のRNA splicing variantが存在すると考えられる。とくにC端には4種のvariantがあり、long C terminus 2種のみが活性型ADAR2に翻訳され、ADAR2活性制御に主要な役割を持つと考えられる。ヒト小脳の核分画抽出物によるウェスタンブロッティングでは、long C terminusを持つメジャーバンド2種が確認できた。このことは、ADAR2は多数のmRNA splicing variantを持ちながら活性型タンパクに翻訳されるものはそのごく一部であり、splicingを通じで活性調節を行っている可能性を示している。ALSの神経細胞で、この調節機構がどのような変化を受けているかを解明することは病因の解明につながると考えられる。
著者
郭 伸
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

孤発性筋萎縮性側索硬化症(ALS)脊髄運動ニューロンに見出された疾患特異的分子異常を再現する動物モデルであるコンディショナルADAR2ノックアウトマウスを用いて、運動ニューロンの脳神経核におけるADAR2ノックアウトによるCa^<2+>透過性AMPA受容体の発現と神経細胞死との関連を調べた。コリン作動性ニューロンが局在する脳神経核では、対照群では100%に保たれていたGluR2 Q/R部位のRNA編集率が90%以下に低下していた。細胞数算定により統計的に有意な神経細胞脱落が明らかになったが、外眼筋神経核では細胞脱落、グリオーシスが見られなかったことから、運動ニューロンはADAR2鉄損により細胞死に陥るが、外眼筋神経核の運動ニューロンはこのメカニズムによる細胞死に抵抗性であることが明らかになった。ADAR2のノックアウトによる運動ニューロン死は、未編集型GluR2をサブユニットに含むCa^<2+>透過性AMPA受容体の増加による細胞内Ca^<2+>濃度の上昇によると考えられる。外眼筋運動ニューロンではCa^<2+>結合蛋白であるParvalbuminの発現量が多く、Ca^<2+>流入によるCa^<2+>濃度の上昇が抑制されることが細胞死に抵抗性である一因であると考えられた。ADAR2ノックアウトマウスの脊髄のWestern blotting解析により、運動ニューロン死には、アポトーシス、それもミトコンドリア障害を介するintrinsic apoptosis経路よりextrinsic apoptosis経路の活性化、オートファジー経路の活性化の関与もあると考えられる。ADAR2ノックアウトマウスは、孤発性ALS様の神経細胞死を呈するので、細胞死カスケードを更に詳しく調べることでALSの病因解析のためのツールになると考えられる。