著者
島弧深部構造研究グループ 赤松 陽 原田 郁夫 飯川 健勝 川北 敏章 小林 和宏 小林 雅弘 小泉 潔 久保田 喜裕 宮川 武史 村山 敬真 小田 孝二 小河 靖男 佐々木 拓郎 鈴木 尉元 鈴木 義浩 山崎 興輔
出版者
地学団体研究会
雑誌
地球科学 (ISSN:03666611)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.9-27, 2009
参考文献数
11
被引用文献数
2

島弧深部構造研究グループは,気象庁2006年刊行の地震年報によって,日本列島とその周辺地域で1983年から2005年までに発生した地震の震源分布を検討した.そのうち100km未満の地震はM4.5以上,100km以深の地震についてはM3以上のものを取り上げ,陸上は400mごとの等高線,海域は400mごとの等深線で示された地形図上にプロットして検討資料とした.震源の空間的な分布を明らかにするために,地震の分布する空間の下底の等深線を描いた.等深線は,北海道から千島列島に沿う地域では千島・カムチャツカ海溝付近から北西方に,本州に沿う地域では日本海溝付近から西方に,伊豆・小笠原諸島に沿う地域では伊豆・小笠原海溝付近から南西方に,九州ないし南西諸島とその周辺地域では,琉球海溝付近から北西方に次第に深くなるような傾向を示す.より細かく検討すると,等深線は単純ではない.等深線中に,直線状ないし弧状に走り,隣の単元に数10kmあるいはそれ以上に不連続的に変位する単元を識別できる.このような不連続部は,北海道・千島列島地域では北西-南東方向に走り,各深さのこのような不連続部は雁行状に並ぶ.これらの不連続変位部に境された一つの単元の拡がりは100ないし400kmである.より大きな不連続線として国後島の東縁付近と北海道中央を通るものが識別される.千島海盆付近で等深線は南東方に張り出しているが,これは千島海盆付近で震源分布域が下方に膨らんでいることを示す.本州東北部と,日本海の東北部および中央部では,直線状あるいは弧状に走る等深線を北西-南東と東西方向の不連続線が切る.これらによって境された単元の拡がりは100ないし200kmである.より大きな不連続線として,日本海南西部から本州の中央部を走る線が識別される.伊豆・小笠原諸島地域では,直線状あるいは弧状の等深線を切る不連続部は東北東-西南西方向をとる.これら不連続変位部に境された単元の拡がりは数10ないし200kmである.より大きな不連続線として伊豆・小笠原諸島北部と中央部を走るものが識別される.九州・南西諸島とその周辺地域では,直線状あるいは弧状の等深線を切る不連続部は東北東-西南西方向に走る.これら不連続部に境された単元の拡がりは80ないし250kmである.より大きな不連続線として大隈諸島と奄美大島間を走る線が識別される.このように,和達・ベニオフ面とよばれるものは地塊構造を暗示させる垂直に近い線によって境された,より小さな分節にわかれることが明らかになった.
著者
野口 美由貴 鈴木 義浩 山崎 章弘
出版者
一般社団法人 室内環境学会
雑誌
室内環境 (ISSN:18820395)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.51-60, 2018 (Released:2018-04-01)
参考文献数
39
被引用文献数
2 1

受動喫煙の一つの形態として,たばこを吸い終わって火を消した後に残留するたばこ煙であるサードハンドスモーク(Thirdhand smoke, THS)が問題になっている。喫煙終了後のたばこ煙の成分は,空気中に長時間残留するものも存在するが,大部分は壁紙や衣服などの固体表面に付着する。付着したたばこ煙成分は長期間にわたって徐々に空気中に再放散され,人体に取り込まれる可能性がある。THSは喫煙室の臭いや変色などから日常的に見られる現象であるが,喫煙環境の問題として取り上げられたのは,2009年と比較的新しい(Winickoffら)。翌年,表面に付着したニコチンが,空気中の亜硝酸HONOと反応して発がん性を持つニトロソアミン類(Tobacco-specific nitrosamines, TSANs)が生成することが報告されてから,THSに関する研究は飛躍的に進んだ。本稿では,新たな喫煙環境問題であるTHSについて,その特徴,化学特性,フィールドでのTHSの調査例,毒性と健康影響,曝露アセスメントの各観点から現状を概観した。THSは4つのR,Remain残留,Reaction反応,Re-emit再放散,Re-suspended再浮遊によって特徴付けられる。THSは通常の環境たばこ煙(ETS, Environmental tobacco smoke)が残留中に変化(エージング)したものであり,その化学組成はETSと異なる。また,表面に吸着した化学種が様々な化学変化によって異なる化学種に変換される。THSのフィールド調査は,自動車,住居,病院などで気相濃度測定やふき取り法,ダストの付着物測定などによって行われ,喫煙履歴のある場所での高濃度のニコチン,あるいはTSNAsの検出が報告されている。THSの毒性試験は,細胞レベルではDNA損傷が,また動物レベルでも代謝系や免疫系への影響が報告されている。また,THSへの曝露アセスメントでは,乳幼児へのTHS曝露の影響が深刻な問題であるとしている。現状では,THSによる健康被害の程度に関して確実な証拠はまだまだ不足しているものと考えられるが,THSのもたらす不快な臭気なども含めて新たな喫煙環境問題を引き起こす可能性があるため,今後の研究の進展が待たれる。