著者
鈴木 重幾
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2007年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.72, 2007 (Released:2007-04-29)

1.はじめに 日本人の平均寿命は,平成16年度の厚生労働省の調べによると,男性が78歳,女性が85歳を超えている.一般的に,高齢者という表現は,65歳以上を対象として使われてきたが,平均寿命までの時間に当てはめると,女性の場合は約20年,男性でも13年以上の時間がある.今後さらに医療や科学技術,福祉体制の進歩・充実により,平均寿命は,まだ伸びる可能性を持っている. そうした観点から,行政が主体,または補助事業としておこなう福祉サービスや健康づくり事業も,病に倒れた後のリハビリテーションや配食サービス以外にも,病院主催の運動教室やぼけ防止の会など,年々多様化している. ここでは,地域センターなどで開かれている各種講座と同様に,ぼけ防止として効果が期待されている麻雀を考察してみた. 2.研究対象地域 行政管理下の施設である公民館や地域センターで催されている各種講座は,利用料金を徴収して不足分を行政が補填するかたちで行われている. しかし,麻雀用のテーブルやいすや牌等の備品を,複数揃えることは財政的に困難であるため,地域センター等で開催されている例は少ない. また,麻雀の場合,利用料金を徴収することにより,改正風営適正化法第7号が適用されるため,風俗営業の営業許可申請を所轄警察署に申請することとなり,管理者が行政となるシルバー事業などでは許可申請が認められにくい. こうした観点から,本研究は行政の補助事業として行っている東京都調布市を対象とした. 3.概要 健康麻雀とは「(金銭・物品を)賭けない・(酒類を)飲まない・(たばこを)吸わない」という環境のもとに行われ,民間の団体・協会で主催されているケースもあるが,行政の事業として行われているものは非常に少ない. 市の福祉サービスの健康づくり事業のひとつである『いきいき麻雀』も,市内在住の65歳以上の元気高齢者を対象とした事業である.募集に際しては,定員の約5倍もの参加希望者があった.その絶対数からは,目的とされる「仲間づくり」,「認知症予防」,「閉じこもり防止」の,いずれも効果が期待できると考えられる. 同市の以前からの在宅福祉サービスのひとつであるデイ・サービスでは,利用者の選択理由として挙げられた第一は「ケア・マネージャーの紹介」であり,約半数を占める.残りの半数は「サービス内容がよい」,「利用回数が増やせる」,「家から近い」と続き,「知人の紹介」,「医師の紹介」は,ほとんど無い. 畠山(2003)によるデイ・サービスセンターの利用者に関するでも,利用者は紹介者を通じての通所が主体で,地理的要因から選択された例は少ないことを指摘している. 今回対象とした『いきいき麻雀』は,会場は市内西部と中部の2店舗で,初心者コース,中・上級コースなどに分かれ,隔週1回行われており,初年度は自治体主催であったが,事業がある程度軌道に乗ったため,2004年度からは市の補助事業としておこなわれている. 4.研究方法 参加者に選択式を主とするアンケートを実施した.内容は,在住年数・転入年数,居住地域,年齢,家族構成,こづかい,利用交通機関,別の場所で開催された際に移動するか,などである. このアンケート結果と主催者への聞き取り,調布市の担当者への聞き取りにより,趣味活動の一部としての活動を考察した. 5.結果 参加者は,基本的に自力で来所可能であることに限定しており,そのため市内全域から徒歩をはじめとして,自転車,バス,電車など,すべての交通機関の利用が見られ,近接可能性による差異は少ないと考えられる.また行政は,ぼけ防止や知人づくりなどを詠っているが,行政の思惑と現実には差異が見られた.また,友人・知人との連名による応募ができないせいもあるが,居住地近くに新規の開催店舗が決定すれば,移動すると回答した人も多く,連帯意識などは希薄である. 文献 畠山輝雄2003.デイサービスセンター利用者の周辺市町村施設の選択理由利用変化―藤沢市の事例―.地理誌叢44-1・2,21-28. 厚生省2000.『厚生白書 平成12年版』ぎょうせい.