著者
鍋嶋 絵里 石井 弘明
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.90, no.6, pp.420-430, 2008 (Released:2009-01-23)
参考文献数
93
被引用文献数
2 2

樹高成長は, 樹種や立地条件に依存して変化し, ある高さ以上になると停止する。決定された最大樹高は, 光をめぐる資源獲得競争での優位性や群落の階層構造の発達, 森林の生産性を規定する要因として重要である。近年, 樹冠へアクセスするシステムや技術が発達し, 数十メートルにも及ぶ高木の樹冠における生理学的測定が可能となった。その結果, 土壌からの水輸送の限界による個葉光合成速度の低下や, 重力による水ポテンシャルの低下によるシュートや葉における細胞の伸長抑制などといった生理学的要因によって樹高成長が制限される可能性が示された。また理論研究や操作実験などから, 自重や風圧に対する力学的支持機能や老化による遺伝的な変化に関しては, 樹高成長の制限要因としての寄与は低いことが示唆されている。今後は樹高成長制限が天然林での遷移過程や個体間の相互作用, 群落の発達機構などにどのように影響しているかを明らかにすることで, 樹高成長の包括的な理解と森林の生産性予測などへの応用が可能になると考えられる。
著者
小口 理一 菱 拓雄 谷 友和 齋藤 隆実 鍋嶋 絵里
出版者
日本生態学会暫定事務局
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.71-82, 2009

本特集の基となった第55回日本生態学会福岡大会における生理生態学企画集会は、主に地上部を見て植物の生態を研究している研究者が地下部のどのような性質に注意をして研究をすすめていく必要があるのか、勉強する機会を設けるというコンセプトで開かれた。地下部の水透過性は環境に合わせて、アクアポリンを代表とするタンパク質の性質に依存し数十分のオーダーですばやく変化するとともに植物全体の水透過性に大きく影響する事、地上部の活動(蒸散)が地下部の活動(呼吸)と相関を持ち、地上部を見ているだけでは気づく事ができないコストが地下で発生している事、共生を介した栄養塩獲得能力が地上部と地下部を結ぶシグナルによって制御されている事、地下部にも地上部以上に機能分化したモジュールがありその機能ごとに場合分けが必要である事、これらの企画集会で紹介された研究結果は、地上部の研究者達にとって地下部は無視できないものである事を改めて認識させるに充分なインパクトがあったと思われる。本総括論文では、前半でまずこれらの研究成果について生態学的視点から振り返る。そして、後半では本特集によって見えて来た「地上部と地下部のつながりの理解のために必要な研究とはなにか」について、細根系の機能的ユニット、栄養塩吸収と水吸収のコスト、根の水分生理というトピックに分け、現状と展望を紹介していきたい。