著者
加藤 顕 石井 弘明 榎木 勉 大澤 晃 小林 達明 梅木 清 佐々木 剛 松英 恵吾
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.96, no.3, pp.168-181, 2014-06-01 (Released:2014-09-17)
参考文献数
176
被引用文献数
10 4

近年のレーザーリモートセンシング技術(LiDAR)の発展により,近距離レーザーを用いた森林構造の詳細なデータを迅速かつ正確に取得できるようになった。これまでは航空機レーザーによる研究が圧倒的に多かったが,地上・車載型の近距離レーザーセンサーが身近に利用可能となり,森林構造計測に利用され始めている。航空機レーザーデータから林分レベルでの平均樹高,単木の梢端,樹冠範囲,樹冠単位での単木判別,成層構造,経年的樹高成長を把握できる。一方,地上レーザーを用いることで,幹を主体とした現存量や正確な立木密度が把握できるようになった。これまで手が届かなく測定不可能であった樹冠を森林の内部から測定でき,人的測定誤差の少ない客観的なデータを取得できる。レーザーデータは森林の光・水環境の推定,森林動態の予測,森林保全などといった生態学的研究に応用されてきた。今後は,生理機能の定量化,森林動態の広域・長期モニタリング,森林保全における環境評価手法など,様々な分野での利用拡大が期待される。樹木の形状や林分の現存量を正確に計測できるだけでなく,様々な生態現象を数値的に把握できるようになることを大いに期待したい。
著者
堀田 佳那 石井 弘明 黒田 慶子
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.505-507, 2015 (Released:2016-04-19)
参考文献数
30
被引用文献数
1 2

アーバンフォレストリーは,都市緑地および周辺の天然林を連続した生態系として持続的に管理する都市型森林管理である。本稿では, 2013~14年に行われたアーバンフォレストリーに関する 2つの国際学会に共通するテーマである都市緑地における生物多様性について,欧米の動向を紹介する。都市緑地において多様な樹種を植栽することは,生物多様性の創出だけでなく,伝染病や害虫被害のリスクを分散・低下させ,都市林の安定的な維持管理につながる。植栽樹種を選定する際は,種の由来(外来種・在来種) だけでなく,多様性や病害虫への抵抗性,持続可能性などといった,実用性で判断するのが現実的である。日本においても,都市緑地とかつての里山を含む都市近郊林を有機的に統合し,持続的に管理していくことによって,天然林や植栽林など,様々な由来の緑地を含む日本型アーバンフォレストが創生され,豊かな地域生態系が実現すると考えられる。
著者
鍋嶋 絵里 石井 弘明
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.90, no.6, pp.420-430, 2008 (Released:2009-01-23)
参考文献数
93
被引用文献数
2 2

樹高成長は, 樹種や立地条件に依存して変化し, ある高さ以上になると停止する。決定された最大樹高は, 光をめぐる資源獲得競争での優位性や群落の階層構造の発達, 森林の生産性を規定する要因として重要である。近年, 樹冠へアクセスするシステムや技術が発達し, 数十メートルにも及ぶ高木の樹冠における生理学的測定が可能となった。その結果, 土壌からの水輸送の限界による個葉光合成速度の低下や, 重力による水ポテンシャルの低下によるシュートや葉における細胞の伸長抑制などといった生理学的要因によって樹高成長が制限される可能性が示された。また理論研究や操作実験などから, 自重や風圧に対する力学的支持機能や老化による遺伝的な変化に関しては, 樹高成長の制限要因としての寄与は低いことが示唆されている。今後は樹高成長制限が天然林での遷移過程や個体間の相互作用, 群落の発達機構などにどのように影響しているかを明らかにすることで, 樹高成長の包括的な理解と森林の生産性予測などへの応用が可能になると考えられる。
著者
真鍋 徹 石井 弘明 伊東 啓太郎
出版者
日本景観生態学会
雑誌
景観生態学 (ISSN:18800092)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.1-7, 2007-12-15 (Released:2011-03-18)
参考文献数
64
被引用文献数
12 8

都市緑地は, 都市住民に対するレクリエーション, 防災, アメニティー, 環境調節機能や, 都市に生育・生息する野生生物に対するハビタット, コンジット, シンク機能など, 多面的機能を持った存在である.これら緑地空間の持つ機能を効率的に活用するには, 新たな緑地を創出するよりも, 現存する緑地を活用するほうが, 技術面・コスト面からみても有効であると考えられる.その地の潜在的な植生の姿を現在にとどめるような自然度の高い社寺林は, 都市緑地の効果的な維持・管理に向けての中核的存在となり得ることが期待できる.社寺林の生態学的研究は植物社会学的手法による群落記載に端を発した.その後, 社寺林を孤立林として認識し, 孤立した社寺林の群集構造・動態, 生息・生育地機能, 物理的環境要因を評価した研究へと発展した.また, 最近の研究結果から, 社寺林の構造・動態には, 社寺林内外の管理様式や神仏分離・都市公園法などの政策といった社会的要因も関与していることが示された.社寺林の機能を評価するためには, 広域的な景観スケールで社寺林を捉える必要がある.また, 生態学的要因のみならず人文科学的・社会科学的要因も考慮しなければならない.さらに, 都市緑地の中核的存在として社寺林を活用するには, 人による管理が必須であることが, 科学的な根拠の基で主張できるようになってきた.社寺林に限らず, 今後の都市緑地の保全・管理においては, 多様なスケール・手法を用いた個々の研究を蓄積し, 有機的に統合することが重要であるといえる.
著者
大杉 祥広 石井 弘明
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 = Journal of the Japanese Society of Revegetation Technology (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.45-50, 2009-08-31
参考文献数
17
被引用文献数
1 2

在来種ネズミモチと外来種トウネズミモチの生理・形態特性の違いを明らかにするため,兵庫県の西宮神社の社叢において両樹種の分布パターンおよび様々な光環境に生育する個体の光合成や形態を測定した。ネズミモチは林内にランダムに分布していたが,トウネズミモチは林縁に偏って分布していた。ネズミモチの最大光合成速度(A<SUB>max</SUB>)やクロロフィル・窒素量は光環境によって変化しなかった。一方,トウネズミモチのA<SUB>max</SUB>は,暗い環境ではネズミモチと同程度であったが,明るい環境ではネズミモチより高い値を示し,クロロフィル・窒素量も変化した。また,トウネズミモチは明るい環境における枝葉の展開が旺盛で,このような生理・形態特性が林縁におけるトウネズミモチの拡大に寄与すると考えられる。
著者
石井 弘明 角谷 友子
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.51, pp.152, 2004

アメリカ北西部の老齢ダグラスファー-ツガ林において、樹冠内の枯死枝現存量とその分解過程を明らかにするために、ダグラスファーの樹冠内に単ロープ法で登り、調査を行った。個体あたりの枯死枝現存量は個体サイズ(胸高直径および樹高)と高い相関が見られ、生枝現存量の増加に伴い枯死量は指数的に増加した。このことから、個体成長に伴い枯死枝が樹冠内に蓄積していくことが示唆された。森林全体の樹上の枯死枝現存量は5.19-12.33 Mg/ha、地上は1.80-2.05 Mg/haで樹上が地上の約5倍であった。<br><br> 樹冠内の枯死枝と地上に落下した枯死枝では、水分や微生物などの条件が異なるので、分解の過程も異なると考えられる。樹冠内及び地上の枯死枝を腐朽の進行具合によって5段階に分け、各段階におけるC、N、リグニン含有量を分析した。樹上と地上の間でCN比に明瞭な違いが見られなかったことから、地上で採取された枯死枝は樹上で枯死し、時間が経ってから落下したことが示唆された。一方、倒木に由来し地上で分解が進んだと考えられる枯死枝ではCN比が低かったことから、地上で分解が進むと菌や微生物などの分解作用により、CN比が減少すると考えられる。よって、樹上での分解には生物的作用があまり働かないことが示唆された。樹上では各腐朽度の間でリグニン含有率に明瞭な違いが見られなかったが、地上では腐朽の初期に増加する傾向があり、腐朽が進むと減少した。リグニンの分解においても、樹上では生物的作用があまり働かないことが示唆された。<br>