著者
榎木 勉 久保田 勝義 鍜治 清弘 長 慶一郎 山内 康平 椎葉 康喜 緒方 健人 菱 拓雄 田代 直明
出版者
九州大学農学部附属演習林
雑誌
九州大学農学部演習林報告 (ISSN:04530284)
巻号頁・発行日
no.98, pp.17-24, 2017-03

九州大学宮崎演習林内の冷温帯針広混交林に1971年に設定した調査地を2013年に復元し,森林構造と種組成を再調査した。1971年に林床を被覆していたスズタケは2013年には完全に消失した。その他の下層の木本も,シカが摂食しないシキミとアセビ以外は消失した。樹高2m 以上の木本も種数,幹数とも大きく減少した。特に胸高直径5cm 未満の木本は幹数が20%程度まで減少した。胸高直径5cm 以上の針葉樹は,同サイズの広葉樹よりも成長速度が速かった。死亡率は落葉広葉樹が常緑針葉樹や常緑広葉樹よりも低かった。モミはツガよりも成長速度が速く,死亡率が高かった。モミの優占度はツガよりも大きかったが,今後はツガの優占度が増加するかもしれない。しかし,シキミとアセビ以外の新規加入がみられないため,さらに長期的にはシキミとアセビが優占する林分になる可能性がある。In 2013, we reestablished study plots established in1971 in a cool temperate mixed forest in the Shiiba Research Forest, Kyushu University. We identified the trees measured in the former study, and measured stand structure and species composition again. The understory had mostly been denuded by sika deer browsing in 2013, while Sasa borealis covered the forest floor thickly in 1971. The number of species and stems of trees taller than 2m in height also decreased largely. Especially, the stem numbers of trees smaller than 5cm in diameter at breast height (DBH) decreased up to 20%. The growth rate of conifer larger than or equal to 5cm in DBH was larger than those of broad-leaved trees. The mortality of deciduous trees was smaller than those of evergreen trees. The larger growth rate of Abies firma corresponded to the larger dominance of A. firma than Tsuga sieboldii. The low mortality of T. sieboldii suggested that the dominance of T. sieboldii would increase in the future. Further, the stand would be dominated by two species sika deer cannot consume, Illicium anisatum and Pieris japonica subsp. japonica, because no species other than the two species regenerated in the stands.
著者
小口 理一 菱 拓雄 谷 友和 齋藤 隆実 鍋嶋 絵里
出版者
日本生態学会暫定事務局
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.71-82, 2009

本特集の基となった第55回日本生態学会福岡大会における生理生態学企画集会は、主に地上部を見て植物の生態を研究している研究者が地下部のどのような性質に注意をして研究をすすめていく必要があるのか、勉強する機会を設けるというコンセプトで開かれた。地下部の水透過性は環境に合わせて、アクアポリンを代表とするタンパク質の性質に依存し数十分のオーダーですばやく変化するとともに植物全体の水透過性に大きく影響する事、地上部の活動(蒸散)が地下部の活動(呼吸)と相関を持ち、地上部を見ているだけでは気づく事ができないコストが地下で発生している事、共生を介した栄養塩獲得能力が地上部と地下部を結ぶシグナルによって制御されている事、地下部にも地上部以上に機能分化したモジュールがありその機能ごとに場合分けが必要である事、これらの企画集会で紹介された研究結果は、地上部の研究者達にとって地下部は無視できないものである事を改めて認識させるに充分なインパクトがあったと思われる。本総括論文では、前半でまずこれらの研究成果について生態学的視点から振り返る。そして、後半では本特集によって見えて来た「地上部と地下部のつながりの理解のために必要な研究とはなにか」について、細根系の機能的ユニット、栄養塩吸収と水吸収のコスト、根の水分生理というトピックに分け、現状と展望を紹介していきたい。