著者
長尾 朋子
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.77, no.4, pp.183-194, 2004-04-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
38
被引用文献数
2 5

伝統的治水工法の一つである水害防備林が現存する久慈川中流域において,その立地と機能を検証した.水害防備林は立地面から,自然堤防上,段丘崖下,霞堤の前面の3種類に分類され,護岸機能とスクリーニング機能を持つことが確認された.さらに,自然堤防上に立地している水害防備林は土砂を捕捉することにより自然堤防の上方への発達を促していることがわかった.水害防備林は「成長する水制構造物」として評価できる.
著者
長尾 朋子
出版者
東京女学館
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2008

霞堤や水害防備林は,地域社会と河川が共生する視点に立脚した伝統的氾濫許容型治水システムであり,水防機能や立地に関する地域住民の理解と,地域社会による維持管理が必要になる.地域コミュニティの解体と相まって維持管理体制が形骸化しつつあるが,河川が本来保有するシステムを壊さない解決法の1つとして,持続可能な維持管理システムが重要であるため,行政ではなく地域住民主体による維持・管理される伝統的工法が再評価され,推奨されつつある.このような環境調和型の住民主体の治水システムは海外ではほとんど知られていなく,本邦から海外に発信することが可能な「環境共生型治水システム」のモデルとなりうる存在である.豪雨災害からの復興にあたって河川の地形変容プロセスを定量化し,伝統的治水工法の地形プロセスに与える影響、地域防災に与える影響を再評価した.水害防備林は地形プロセスと対応し治水機能をより発達させる事例が確認されていることから,地形条件の異なる諸河川において,伝統的治水構造物の実態と地形プロセスと治水機能を発達させる条件との関係を明らかにし比較検討した.宮崎県北川の激特事業は伝統的治水工法が採用されたが,2004年福井豪雨災害からの復旧計画では,足羽川では工事に伴って機能を認識しつつも伝統的治水工法はほぼ消滅した.また、近年は豪雨災害が起きていないが、伝統的治水工法が地域に根付いていた木津川,大都市河川として地域水防が消滅し,2007年被災寸前となった多摩川下流域と比較した.また,地震によって被災した北上川,ゲリラ豪雨による神戸の都市河川を調査した.地域住民の防災意識は、治水システムの変遷や水防組織と密接に関連していた.大規模水制の設置に伴い,地域住民の防災に対する意識は減退する傾向が強く,氾濫許容型をとりいれることは,地域住民防災意識を向上させる点にも意義がある.