- 著者
-
長崎 靖子
- 出版者
- 川村学園女子大学
- 雑誌
- 川村学園女子大学研究紀要 (ISSN:09186050)
- 巻号頁・発行日
- vol.18, no.3, pp.131-147, 2007
本稿では,人称代名詞「僕」「君」に関し,(1)明治以前の「僕」「君」の使用,(2)明治以降の「僕」「君」の使用,(3)女性に対する「僕」「君」の使用の3点を,使用者,使用相手,使用意図を中心に観察した。明治以前の資料では,「僕」は丁寧な言葉遣いとともに使用が見られるところから,謙称として使用されていたと考えられる。一方「君」に関しては,主君に対する使用や遊里の特別な使用は見られたが,現代的な用例は確認されなかった。明治に入ると,初期の資料では「僕」は謙称の用例とともに,対等の立場での使用が見られる。「君」に関しても,敬意を含んだ使用と対等な立場での使用が見られるようになり,現代の人称代名詞へ移行する過渡的な状況が確認された。明治半ば以降は,男性同士の対等の関係での「僕」「君」の使用の広まりが見られた。男性の,女性に対する「僕」「君」の使用に関しては,明治前期にはまだ一般的ではない。「僕」は明治半ば以降,頻繁に見られるようになる。また「君」の使用は,明治の末年から大正の作品に確認されたが,用例はまだ少ない。女性に対する「君」の使用が広がるのは,大正末から昭和初期にかけて流行した「モダンボーイ」「モダンガール」という特殊な風俗の中での使用からと考えられる。