著者
長谷 千代子
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.83, no.3, pp.741-763, 2009-12-30

近年、自然環境問題に対する関心の高まりとともに、アニミズムが再び一部で注目されている。しかし、その現象を語るためのアニミズム「論」の再検討は不十分であり、本稿はそうした理論の整理を目的とする。アニミズム論は、タイラー以来、宗教の基礎理論とされてきたが、一部の論者はこれを環境認識の手法として捉えなおそうとしている。つまりアニミズム論とは、(自然)物に霊が宿ると「見立て」、「擬人化」する認識手法だというのである。しかしこの見方は、常に一方的に対象を認識する理性的能動的主体という至極近代的な人間観を前提としており、自己と(自然)物が等しく霊を共有し、その神秘的な力によって自らも生かされているという主体の受動的感覚を看過しやすくなる。人間が自然環境を一方的かつ操作的に扱ってきた近代的発想を批判したいのならば、この人間の受動性を再認識すべきであるというのが、本稿の主張である。
著者
長谷 千代子
出版者
九州大学比較宗教学研究室
雑誌
西日本の新宗教運動の比較研究
巻号頁・発行日
vol.2, pp.7-31, 1995-04

本論文は日本の新宗教教団の一つである真如苑の入信過程についての研究である。新宗教研究は、わが国の宗教学・宗教史学の主要なテーマのひとつであるが、信者の入信過程を論じたものは限られている。本論文は、信者に対するアンケート調査と、読書理論を活用することで、入信過程の研究に対する貢献を図ったものである。 真如苑は80年代に急成長した新宗教教団であり、入信の動機は霊能力の獲得にあると見られていた。しかしそうした関心から本教団に接した信者は、悩みが解決されれば教団から離れていく。一方、教義に関心をもち、その教義を通じて世界の解釈を行なうようになれた信者は、それを以降の世界解釈の基礎としていく。また、真如苑は修行という実体験を勧めはするが、その解釈は与えない。信者はその体験を理解するためにも教義について深く理解しようとするのであり、それによってその世界観を深く受容していくのである。
著者
長谷 千代子
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

現在中国では、宗教的な活動や慣習の意味が問い直されている。本研究では、主に中国における宗教についてのとらえ方の現代的変化を、聖性の在り方そのものと聖性が現れる「場所」や「もの」の在り方の具体的な変化をとおして明らかにしようとした。その結果分かったのは、政治的には宗教活動場所を特定の場所に限定しようとする力が働く一方で、そうした場所での活動に飽き足らなくなった人々が新たな活動場所を作ったり、世俗的な生活そのものを宗教的な修業の場として読み替えたりして、伝統的なものとは異なる聖なる場所を創造していることだった。
著者
長谷 千代子
出版者
東京都立大学社会人類学会
雑誌
社会人類学年報
巻号頁・発行日
vol.30, pp.63-87, 2004-09-15

本稿は、近代的な「宗教」概念によって切り捨てられた民間信仰的な実践が、漢族との関係構築において重要な役割を果たすと同時に、近代的世界のなかで徳宏タイ族の民族アイデンティティと共同体を維持していく重要なツールになっていることを論じている。 中国の徳宏タイ族は漢化が進んでいると言われており、タイ族によく見られるムアンの神(クニ領域の守護神)祭祀においても、徳宏では関公のような漢文化起源の神が組み込まれていて、漢族もタイ族も参拝する状態になっている。しかし人々の参拝行動を見ると、漢族は関公廟を財神と見なし、タイ族はムアンの神と見なして別々に参拝しているが、お互いに廟を独占しようとするわけでもない。ここから読み取られるのは、漢化と民族境界維持の試みとが絡み合いながら同時に存在しているという事実であり、共存のために日常的実践のレベルで作り出された技法の存在である。