著者
佐々木 陽 堀内 成人 長谷川 恭一 上原 ます子
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.28, no.7, pp.833-839, 1985-07-30 (Released:2011-08-10)
参考文献数
12

糖尿病患者の予後と発症年齢との関係, とくに最近における若年発症糖尿病患者の予後を明らかにする目的で次の検討を行った. 対象は当センターの登録糖尿病患者1,900名で平均追跡期間7.9年, 35歳未満発症の1型糖尿病12名を除き, 全例が2型糖尿病であった.1) 平均年間死亡率 (1,000対) は対象者全員では男30.79, 女20.10で発症年齢が進むほど高くなるが, 35歳未満発症群では35-44歳群よりむしろ高い値を示した. これに対して, O/E比は全体では1.71で糖尿病患者では有意の過剰死亡を示すが, 発症年齢が若くなるほどO/E比は高くなり, 35歳未満発症群では男4.17, 女9.32に達した.2) 初診時における各種因の分布を発症年齢別にみると, 35歳未満発症群では空腹時血糖値が高く, インスリン治療のものが多い. また, 尿蛋白陽性率も35-44歳発症群よりも高率となっている.3) 発症年齢45歳未満を一括すると腎疾患による死亡が最も多く, 心疾患, 悪性新生物, 肝硬変がこれに次ぎ, 65歳以上発症群とは著しく異なる分布がみられた。また, 腎疾患のO/E比は45歳未満発症群では41.67に達し, 他の年齢群を大きく上回った.以上, 若年発症糖尿病患者は同年代の府民一般に比して死亡リスクが筈しく高く, また腎疾患による死亡がとくに多いなどの特徴がみられた.
著者
笹川 徹 長谷川 恭一 山元 佐和子 吉田 博子 青木 雅裕 山形 沙穂 中村 睦美
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.AcOF1005, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】Timed “up and go” test(以下TUG)は、主に高齢者の歩行、バランス機能を評価する指標であり、日常生活活動(以下ADL)の低下や転倒の危険の度合いを知ることができる検査である。TUGはリハビリの効果判定に広く使用されており、判定基準の研究も多数報告されている。しかし、TUGで規定されている椅子条件は、背もたれおよび肘掛け付の椅子であり、臨床においては、この条件に合う椅子を用意することは困難であることが多い。また、肘掛けの有無による検討はされているが、背もたれの有無による検討はまだされていない。本研究の目的は、このTUGに用いられる椅子の背もたれおよび肘掛けの有無により、結果にどのような相違があるかの検討を行い、TUGで用いられている椅子以外でも容易に本検査が行える可能性を検討する。【方法】対象は、60歳以上の杖歩行可能な男性21名、女性29名の計50名(健常者4名、内部疾患7名、運動器疾患31名、脳血管疾患8名)とした。とした。対象の年齢・身長・体重の平均値(標準偏差)は、74.4(6.6)歳、身長155.6(8.8)cm、体重56.5(12.1)kgであった。開始坐位は、背もたれおよび肘掛けの使用有無で4条件とし、各々の実施順番は無作為とした。TUGは、座面高44cmの背もたれおよび肘掛け付椅子を使用した。背もたれを使用する場合は背もたれに寄りかかり、使用しない場合は体幹前後傾の無い状態で行うこととした。肘掛けを使用する場合は肘掛けに両上肢を乗せ、使用しない場合は両手を膝の上に置いた状態で行った。杖使用の場合は、どちらの条件でも杖使用側のみ杖を床についた状態で行うこととした。被験者は、検者の合図で立ち上がり、前進し、3m先の目印の所で方向転換し、元の椅子に戻って腰掛けることとした。被験者にこの課題動作を説明し、やり方が十分理解されたことを確認してから実施に移った。検者は、これらの一連の動作に要する時間を計測した。歩行速度は、結果の変動を少なくするため、“転ばない程度でできるだけ早く”と指示した。統計解析は各分析項目についてPASW(VER.18)を用いて一元配置分散分析を有意水準5%で実施した。【説明と同意】本研究に先立ち、対象者に対し、研究の目的・方法・予測される危険等について説明を行い、書面による同意を得た。【結果】椅子各条件でのTUG結果の平均値(標準偏差)は、背もたれあり・肘掛けありで15.36(7.72)秒、背もたれなし・肘掛けありで15.43(7.66)秒、背もたれなし・肘掛けなしで15.86(8.77)秒、背もたれあり・肘掛けなしで16.25(9.37)秒だった。一元配置分散分析の結果、椅子4条件のTUG結果に有意差は無かった。【考察】今回の実験では椅子各条件でのTUG結果に有意な差は見られなかった。この結果は、背もたれおよび肘掛けの有無において差が出ない可能性があることを示唆し、本検査が背もたれおよび肘掛けの有無に関係なく行える可能性があることを意味する。肘掛けの有無については、Siggeirsdottirらの肘掛けの有無による検討結果である肘掛けのない椅子は肘掛け付の椅子よりも有意に立ち上がりにくいと報告している結果に反する。この要因として、条件を統一しても上肢に疾患があり肘掛けを使用できないものや、杖使用者では、肘掛け使用条件でもほとんど肘掛けに頼らず立ち上がることが影響したと考えられる。松本らは、膝押し群、座面押し群、肘掛け押し群で比較した結果、膝押し群と座面押し群および肘掛け押し群に有意差が認められ、座面押し群と肘掛け押し郡には有意差は認められなかったと報告し、上肢使用に対して具体的な教示をすることが必要であるとしている。また、Siggeirsdottirらは高さ46cmの椅子よりも42cmの椅子はTUG結果が有意に遅いと報告している。差が見られなかった他の要因としては、身長や下腿長の差による開始時の足底接地の有無等も影響していることが考えられる。これらの原因により、立ち上がり方に多様性があることが影響していることが考えられる。今後は、更にサンプル数を多くし、疾患別による検討や下腿長や座面高および杖使用による影響を検討していきたい。【理学療法学研究としての意義】椅子各条件で有意差が無いという結果は、背もたれの無い椅子でも、TUG結果に影響はせず、多数検討されている判定基準を用いることが可能である可能性があることを示唆する。これにより、臨床において、背もたれの無い椅子でもTUGを行うことができ、歩行の自立や転倒リスク予測を行うことができる。