著者
細見 心一 長谷川 美和 辻田 忠弘
出版者
甲南大学
雑誌
甲南大学紀要. 理工学編 (ISSN:13480383)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.59-78, 2005-07-31
被引用文献数
1

本論文は国宝源氏物語絵巻「柏木(二)」の制作当時から現在に至る約900年の間に変化したと思われる絵画の魅力について、現代人の感性(年齢は20代に限定)を使い、自然科学的に追求することを目的とし、SD(Semantic Differential)法による感性的な分析と色彩の観点からの考察を行ったものである。SD法の実験ではAdobe Systems社のPhotoshop7.0.1による画像編集を行い、9枚の実験絵面を用意し、モニターを使い印象評価を行った。用意した実験絵画は原本1枚・修復絵画1枚・復元絵画1枚・モーフイングによる合成絵画6枚である。また、日本人の心の中にある美についての評価軸を決定するために、源氏物語絵巻以外の国宝絵画20枚によるSD法実験を行った。さらに、和紙やろうそくの効果について調べるため、原本・修復絵画・復元絵画を和紙に印刷しSD法実験を行った。次に、色彩の観点からの考察では国宝源氏物語絵巻「柏木(二)」が約900年の間にどのように変化したかを調べるため、復元絵画と原本について色差・配色・CMYKの分析と考察を行った。SD法の分析を行った結果、「柏木(二)」の復元絵画では極彩色で雅やかな美を、原本ではわび・さび・幽玄のある美を被験者が感じていることがわかった。さらに、この絵画についている傷・ムラのある変色・絵具の剥落がこの絵画を見る者の想像力をかきたて、わび・さび・幽玄の印象をさらに出していることを定量的に分析した。また、色彩分析の結果から、「柏木(二)」は時が経つごとに、絵の具が色あせることなく、より明度の低い暗い色に変わり、そして幽かに残る制作当時に近い色と変色が進んだ色が混在することにより、元の極彩色で雅やかだった状態や時の流れを想像させるのではないかと考えられる。つまり、時の経過とともに失われていく極彩色で雅やかだった印象やその歴史を想像させる傷、ムラのある変色・絵具の剥落の効果プラス、絵の具が色あせることなく、より明度の低い暗い色で青の無いまとまった配色になるという色彩の変化により、この絵画を見るものを静かに引き込んでいくようなわび・さび・幽玄のある美へと「柏木(二)」が変化したことを定量的に分析することができた。
著者
坂毛 宏彰 深野 淳 板倉誠也 長谷川美和 辻田忠弘
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告人文科学とコンピュータ(CH) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2005, no.105, pp.1-8, 2005-10-28

本論文は、謎の浮世絵師、東洲斎写楽が一体誰であるかを解明する一つの手法として、写楽の役者絵で特徴的な目に着目し、写楽と葛飾北斎、歌川豊国、喜多川歌麿の特徴をモレリアン・メソッド(顔の場合は目や鼻、口の様に画面を細かく解剖し、その細部の形や構図、技法、色使いなどから絵画を分析する方法)による判別分析を行った。また、SD法(Semantic Differential Method)を用いた心理的な分析を行い、結果を比較することで写楽の浮世絵における目の特徴の分析する事によって写楽のなぞについての研究を行った。This research focused on the characteristic eyes of Sharaku's pictures of actors as one technique for clarifying just who was this mysterious ukiyoe master Sharaku Toshusai. Eye features in works of Katsushika Hokusai, Toyokumi Utagawa, and Utamaro Kitagawa were analyzed by distinction analysis using the Morerian method, and the SD method. We researched Sharaku's pictures based on these results.